新型コロナウイルス禍にもかかわらず、神戸市内で高級食パン専門店の新規出店が相次いでいる。記者が歩いて確認したところ、三宮・元町周辺のエリアには少なくとも15店舗あり、半数近くの6店舗は昨年2月以降にできた=地図と写真参照。元々ギフト用に人気があった高級食パン。外出自粛のさなかにあってなぜ今、人気?(森下陽介)
総務省の家計調査(2人以上の世帯)によると、神戸市の食パンの支出額は、2017~19年の平均で年間1万2256円と全国トップ。一方、消費量は全国5位にとどまるため、神戸市民は食パンに対し高級志向とされ、特にJR元町駅南側は専門店7店舗がひしめく激戦区となっている。
昨年6月にオープンした「食パン工房小麦庵(こむぎあん) 神戸元町店」(同市中央区)には12種類の食パンが並ぶ。昨年末の感染拡大以降、まちを歩く人は減ったが、採算は取れているという。市内に2店舗を構えるオーナーの柏木雅彦さん(56)は「固定客に助けられている。一度、味わってもらえたら食べ続けてもらえる」と自信をのぞかせる。
同市垂水区で長年、パン店を営んできた柏木さん。17年6月に一念発起し、高級食パンに挑戦した。その後「神戸の中心地で勝負したい」と元町エリアへの出店に踏み切った。コロナ禍で不安はあったが、「テークアウトだけなので感染リスクが低い。毎日食べるものなので継続して購入してもらえるのでは」と話す。
「ウィズコロナ」時代を見据え、インターネットで回数券を買うと、月額2980円で月6本の食パン(スタンダード)が買えるサービスを始めた。通常(1本は税抜き580円)より800円ほど安くなる上、店頭でスマートフォンの会員画面を見せると商品が手渡されるので、店内での滞在時間を短縮し、感染リスクを抑えられる。
会社帰り、行列に並んで食パン1本を買った会社員の女性(38)=同市長田区=は昨春から家族での外食を自粛している。「朝食くらいはちょっといいものを食べたい。店にいる時間はわずかで、感染の心配もない」とにっこり。
昨年8月に4店舗目となる神戸三宮店をオープンした「明日の食パン」(兵庫県芦屋市)も巣ごもり需要の追い風を受けた。感染が拡大した昨年3、4月の売上額はコロナ前に比べて約25%増加。店長の大平明さん(53)は「日常のささやかなぜいたくに買い求めていく人が多いのでは」と分析する。
その一方で、コロナの影響を受けている店もある。ある老舗店舗の男性オーナーは「正直、当てが外れた」と肩を落とす。食パンの宅配サービスを行っているため、外出自粛で需要が増すと予想したが、売上額はコロナ前より15%ほど減った。「1本だけだと宅配を遠慮する人もいる。常連客の支えでまだ耐えられているが、コロナ禍が長引けば長引くほど厳しい」と話した。
【高級食パン】一般的に小麦粉や牛乳などの素材や製法にこだわって作られた食パンとされる。専門店が製造・販売を手掛け、価格は1本(2斤分)千円前後で、スーパーなどで売られている食パンと比べて高価。店舗ごとに違った味わいがあり、消費者は自分好みの味を選んで楽しめる。