津波耐えた桜、そろばんに 小野の製造業者が2年かけ製作

2021/03/04 15:00

神山川の桜で作られたそろばんを手に持つ木村祐子さん(中央)とそろばん教室の児童ら=宮城県気仙沼市本吉町窪

 東日本大震災から10年を前に、兵庫県小野市垂井町のそろばん製造卸売業「ダイイチ」が、宮城県気仙沼市で被災した桜の木を使ってそろばんを製作し、被災地に贈った。同市内の川沿いにあった桜並木58本の一部で、10年前の津波に耐えたが、堤防工事に伴い半数以上が伐採された。同社に再利用を提案したそろばん教室講師木村祐子さん(58)=同市=は「思いの詰まった桜が帰ってきてくれた」と感慨深げだ。(杉山雅崇) 関連ニュース 歌の思い伝え続ける 神戸発、世界の被災地で響く「しあわせ運べるように」作者退職へ 3・11の経験が土台、コロナ禍の逆境再び糧に 神戸どうぶつ王国 原発事故で奪われた日常と生まれた分断 福島離れ二重生活10年、母子の記録

 震災で同市は最大20メートルの津波に襲われた。桜並木は気仙沼湾から約2・3キロ離れた神山川の土手にあり、濁流は川を遡上(そじょう)して押し寄せたが、流出は免れた。40~50年前に地元住民が植えた桜は塩害にも負けず、その後も花を咲かせ続け、毎年4月中旬ごろに近隣住民たちを楽しませた。
 震災から5年後、復興事業に伴う堤防の整備計画が浮上。当初は全ての桜が伐採される予定だったが、住民の反対運動もあり、19本(うち2本は移植)を残すことになった。2017年末に切られた39本の一部は無償で住民に提供された。
 木村さんのそろばん教室も津波被害で川の上流地域に移転したが、震災前まで神山川沿いにあった。春になると、教室から桜が見え、自宅から教室に通うのも、土手沿いの道だった。
 「せっかく津波を生き残った桜なのに。このまま捨てられるのは…」。思案した木村さんは木材の提供に応募するとともに、会員制交流サイト(SNS)に「桜でそろばんができないかな」と書き込んだ。
 木村さんが以前、そろばんを発注していたことから、SNS上で親交のあったダイイチの宮永英孝社長(69)。その書き込みを見て、すぐに製作を決意した。
 18年、木村さんから木材が届いた。2年近く乾燥させた後、製作を開始。柔らかい材質の桜は本来、そろばん製作には向かない。宮永さんはそれでも職人たちを説得。慎重に玉削りなどを進め、今年1月までに24丁を完成させた。
 「阪神・淡路大震災が起きた兵庫県民として、なんとしても力になりたかった。桜が生きていた証しを作ることができ、うれしい」と宮永さん。4丁を受け取った木村さんも「そろばんには桜を見てきた私たちの思いがこもっている」と笑みを浮かべた。
 問い合わせはダイイチTEL0794・62・6641

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