岩手の復興「一歩目になれたら」 防災学んだ神戸の男性ら、釜石で起業

2021/03/12 18:35

釜石市に昨年8月に移住し、起業した久保力也さん=岩手県釜石市鵜住居町

 阪神・淡路大震災をきっかけに、兵庫県立舞子高校=神戸市垂水区=に新設された「環境防災科」で学んだ久保力也さん(26)が昨年、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた岩手県釜石市鵜住居町に移住し、会社を起こした。高校時代から東北とつながり続け、実現させた夢だ。釜石市で被災した同世代の女性、舞子高の後輩の計3人で、今春から防災教育や復興のまちづくりに乗り出す。 関連ニュース 【写真】津波犠牲者を追悼する慰霊の塔を訪れ、手を合わせる人たち 【写真】津波で妻ら家族5人を一度に亡くした男性 宮城の遺族、被災者 兵庫の支えが力に 悲しみ語らずとも通じ合えた 東日本大震災10年

 久保さんが高校1年の時、東日本大震災が起きた。翌月から被災地で、泥かきやがれき撤去のボランティアに励んだ。ただ、「役に立ちたい」と思って現地入りしても、「行った時と帰る時の景色が何も変わらなかった」。無力感を味わう一方、継続的な関わりの必要性を痛感した。
 アルバイトでためたお金で定期的に東北に行き、ボランティアで出会った被災者と交流を深めた。京都産業大に進学後は、東北の被災者と関西の大学生が語り合う交流会を企画するなどしてきた。
 東北と関わりが深くなるほど、若者の働く場、学びの場が少ないことや第1次産業の後継者問題などに目が向いた。大学卒業後はフリーで防災の講演活動などをし、より実践的な教材が必要と感じた。
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 昨年10月に設立した会社は「8kurasu(ハチクラス)」。スタッフになるのは、震災当時、釜石市立釜石東中学校3年だった菊池のどかさん(25)。小学生と高台に避難した「釜石の出来事」の当事者で、語り部として教訓を全国に発信してきた。久保さんとは震災1年後に出会った。
 もう一人は環境防災科出身で、兵庫県立大大学院で防災を研究してきた成尾春輝さん(24)=神戸市垂水区。3人で思いを語り合ううち、釜石市での起業が現実になった。成尾さんは4月に移住するという。
 取り組みたいことは、防災教育の教材開発のほか、塾の経営、若者の雇用の場づくりなど幅広い。現在、高齢化に悩むウニ漁師や梅農家とつながりを持っているという。
 実は、久保さんが社長を志したのは高校生の時だ。東北で被災者から悩みを聞いても、自分ではどうしようもなかった。多岐にわたる悩みには、一つの業種では解決できないことも分かった。「社長になって、いろんな事業を手掛けたらいい」。それが今回のチャレンジにつながっている。
 「まちのパワーを生み出す一歩目になれたら」と久保さん。アイデアはたくさんある。(中島摩子)

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