氣志團、スガシカオさんが拡散 浦沢直樹さんがイラスト 老舗ライブハウスの危機に有名人続々

2021/06/23 20:30

オープン当初の「チキンジョージ」(提供写真)

 もう限界です-。オープンから40年、矢沢永吉さんら著名アーティストが多数出演し、神戸の音楽文化をけん引してきた老舗ライブハウス「チキンジョージ」(中央区下山手通2)が、長引く新型コロナウイルス禍で、存続の危機に直面している。3回目の緊急事態宣言下で公演延期や中止が相次いだ5月中旬、クラウドファンディング(CF)の実施を決断。「自分たちだけが苦しいわけじゃなく葛藤もあったが、何としても店を残さないと、という思いが勝った」。代表の児島進さん(60)の決意に、ミュージシャンや音楽ファンの支援の輪が広がっている。(井上太郎) 関連ニュース 浦沢直樹「力になります」 コロナ禍で閉店危機のライブハウスに応援イラスト描き下ろし 【写真】阪神・淡路大震災で倒壊した「チキンジョージ」 「もう限界です。」神戸の名物ライブハウス閉店危機の衝撃 広がる支援、1日で1500万円突破

 チキンジョージは1980年9月、当時大学生だった進さんが、父親が経営するキャバレーの2階にオープンした。「Charさんが『ここのライブハウスは子どもがやってんのか』って驚いてね」。進さんは当時を振り返る。
 ■著名アーティストも
 まだ、ライブハウスが珍しかった時代。キャバレーの閉店や1995年の阪神・淡路大震災での倒壊、再建をへて、現在は地上10階建てビルの地下に、最大450人収容の“4代目”店舗を構えている。
 当初はレコードをBGMにするナイトレストランの形態で、漫才ブームのため人気コンビ「B&B」も出演した。次第に京阪神の大学の軽音学部が週末にライブをし始め、徐々に著名なミュージシャンもステージに立つように。BOOWYやザ・ブルーハーツ、ミスター・ビッグに元ローリングストーンズのミック・テイラーさんなど、国内外のビッグネームが舞台を踏んだ。ハウンド・ドッグのライブで床が抜けそうになったとの逸話も残る。
 ジャンルはハードロックやジャズを融合した「フュージョン」が多かったが、90年代以降はMr.Childrenやコブクロ、あいみょんさんなどもここでライブを開いている。
 ■愛される理由
 幅広いミュージシャンから愛される秘けつは、音響の良さだけではない。
 進さんと弟で専務の勝さん(58)、常務の憲次郎さん(57)の3人兄弟は、舞台を終えた出演者と必ずといっていいほど打ち上げや宴会を楽しんで、目いっぱいもてなした。
 楽屋でまかないを出す。店の近くのホテルを押さえておく。東京へ帰る新幹線のチケットを渡す。「チケットをなくした」と店の前で困っていたらついもう1枚、渡してしまう-。
 「どうやったってキャパシティー以上のギャラは払えないわけでしょ。だったら飲んで食って、喜んでもらったらええんやと」。決して大きくはないライブハウスの経営で、進さんが守ってきた父親の教えという。
 「よく朝まで飲みながら『次いつしましょ』って交渉して。だから、その場限りで終わらなかったっていう面はあるのかな」
 家族ぐるみや長い付き合いに発展することが多く、ミュージシャンにとって、この場所は単なる「ハコ」ではなくなっていた。
 ■長引くコロナ禍
 そんな名物のライブハウスも、コロナ禍の打撃は免れようがなかった。
 昨年2月、大阪のライブハウスで集団感染が起き、ライブハウスに対する世間の風当たりが厳しくなった。さらに、タレントの志村けんさんの訃報を受け、「あのときに芸能界も一気に慎重になったように感じた」(憲次郎さん)。
 自粛ムードが強まる中、建物の抗菌やオンライン公演の導入など、先手を打って考え得る感染対策を進めてきた。「自分たちの店は自分たちで守る。もちろんしんどいのはしんどいけど、そういう気持ちだったし、やれることは全てやろうと」。進さんが言う。
 だが、その後も緊急事態宣言、まん延防止等重点措置に伴う休業や時短営業要請、入場制限が続き、これまで200本以上の公演が延期、中止になった。今年4月下旬から約2カ月間にわたる3回目の緊急事態宣言下では、酒類の提供もできなかった。売り上げ回復にはほど遠く、家賃や人件費で毎月約200万円に上る固定費が、経営を圧迫。苦しい資金繰りが続いた。「(コロナ禍が)こんなに長引くとは正直、全く思わなかった。自力ではもう、難しいのかもしれない」。家賃の滞納で立ち退き、閉店が目前に迫っていたという。
 ■CF実施を決断
 CFは1年ほど前から議論していたが、進さんは「震災のときと違って全国の同業、飲食店、みんなが大変な状況。支援してほしいとはお願いしにくい」と、ずっとためらっていた。
 しかし、心配して連絡をくれたり、ライブができなくて困ったりしているアーティストたちの顔を思い浮かべていると、考えが変わった。41年間やってきた意味って、何だろうと。「まだまだ、自分たちが踏ん張って、神戸のミュージシャンを紹介していかなあかんのちゃうかなと。そう思えるようになった」
 赤字の一部補てんに充てる1500万円を目標に、5月13日にCFを立ち上げた。スガシカオさんや「氣志團」のメンバーらがツイッターで拡散してくれた効果もあり、わずか2日で目標額に到達。その後も、ミュージシャンのつながりをきっかけに「20世紀少年」などで知られる漫画家の浦沢直樹さんがオリジナルのイラストを描き下ろしてくれたため、そのイラストを活用してリターン品のTシャツを追加投入できた。これまでに4千人を超える人が協力。6月22日時点で、寄付額は約2750万円に上っている。
 ■宣言解除後も
 だが、緊急事態宣言の解除後も入場制限や時短要請など、制約が残る。勝さんは「まだまだ、すぐに元通りとはいかない。厳しい状況が続くのは覚悟してる」。寄付は7月14日まで受け付け、上積み分は今後の運営資金と、節目の昨年に開けなかった「40+α周年記念」ライブの実現にも役立てたいという。
 支援に対して「率直に、感謝しかない」と、うなずく進さん。密集を避けるため床一面に引いた白線を見渡し、かみしめるように笑みを浮かべた。
 「今後の責任を感じるよね。もう、自分たちだけの場所じゃないって。これでまた、つぶされへん。チキンをなくすことは、できへんな」
     ◇
 寄付はCFサイト「キャンプファイヤー」で募っている。「チキンジョージ」で検索。

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