【日本海と生きる カニのまちから(2)】「目利き10年」松葉ガニ漁支える 兵庫・香住のブランドに誇り

2021/12/08 10:00

松葉ガニを1匹ずつ見極める「選り手」の黒田良江さん(左)と陽子さん=11月22日未明、兵庫県香美町香住区若松、香住漁港西港

 「上水大(じょうみずだい)」「下(げ)スス2ナシ大(だい)」-。呪文のような文字が書かれた木札が、床に広げられたシートに並ぶ。全部で131銘柄もある。 関連ニュース 「黄金ガニ」1匹30万円、数万匹に1匹の希少種 香住で水揚げ 【日本海と生きる カニのまちから(1)】焦る漁師「カニ取れない」 燃油高も追い打ち 松葉ガニ、単価1・7倍に上昇 1キロ1万2717円

 11月22日午前3時半、兵庫県香美町の香住漁港西港。「選(よ)り手」と呼ばれる女性たちが、手にした松葉ガニ(ズワイガニ雄)を丁寧に目利きし、銘柄ごとに仕分ける作業を始めた。
 3日間の航海を終え帰港した底引き網漁船「竜宝丸」から、旬を迎えた松葉ガニが続々と荷揚げされる。
 「甲羅が硬いカニほど、身もみそもたっぷり詰まっている。逆に腹が透けていると水気が多いんです」
 竜宝丸船主の黒田淳(すなお)さん(65)の妻、良江さん(64)は、選り手を務めて40年近い。「目利き10年」と言われる世界で眼力を鍛え、手足がいてつく真冬も休むことなく働いてきた。
 触った感覚や色つやから瞬時に品質を予測していく。その判断が、漁港の名前を冠したブランド「香住港まつばがに」を支える。
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 選別作業の流れはこうだ。まずは計量から始め、重さにより3グループに大別。次にカニを両手で持ち、甲羅や腹の状態、脚の欠損を調べる。同じグループ内で傷の有無や大きさなどでさらに細かく分け、シートに仕分けた後、鮮度を保つため海水を入れた水槽に運ぶ。
 銘柄の文字の意味は、「水」が水気があって身が少なく、「スス」は体の一部が焦げ茶色がかっている。「2ナシ」は脚が2本欠損している-。
 良江さんは、他の船主から頼まれ、一晩で約1500匹を選別する日もある。1匹の見極めに10秒も要さない。
 10年ほど前からは船長を務める長男の妻、百恵さん(44)や、機関長の次男の妻、陽子さん(35)にも経験を伝えるようになった。
 「判断が付かない場合はランクを必ず一つ落とさせる。少しでも高く売りたいと欲が出ると、品物が悪くなり、船の信頼を損ねてしまう」と、良江さん。
 この日は、2時間余りで約560匹の選別を終えた。午前6時半からの競りの直前まで見直し作業は続いた。
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 「兵庫産の優位性は日本一の選別にある」。10月、漁業者や観光業者らが設立した但馬産松葉ガニ普及推進協議会の会合で、会長の川越一男・浜坂漁協組合長(67)が力を込めた。
 厳密な選別基準はブランド価値の向上だけでなく、売り手と買い手の双方が納得できる価格交渉の成立にも役立つ。但馬漁協香住支所の澤田敏幸販売課長(53)は「料理や進物など用途に応じた価格やサイズのカニが購入しやすくなる」と利点を話す。
 良質なカニを安く買いたい仲買人は時に、甲羅のへこみや脚のわずかな欠損も傷と主張する。選り手はプロ同士の厳しい関係に鍛えられて、漁船や港、産地の信頼を築いてきた。
 「香住のカニを選(よ)っているプライドかな」。良江さんは長く続ける理由をこう話し、静かにほほ笑んだ。(金海隆至、末吉佳希)
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