【日本海と生きる カニのまちから(3)】存在感増す実習生 言語、文化の壁越え共生へ

2021/12/09 14:25

交流会で給食を食べながら触れ合うインドネシア人技能実習生と児童たち=2019年7月、兵庫県新温泉町諸寄、浜坂西小学校(同小提供)

 「皆さんが習得した技能によってインドネシアが発展することを祈っている」 関連ニュース しゃぶしゃぶや焼きガニ、香住ガニの魅力PR 県漁連が明石で料理教室 但馬のズワイガニ漁獲量502トン、過去25年で最少 記録的不漁続く 津居山は資源保護でミズガニ漁自粛 「漁師汁」の振る舞い、カニ身たっぷり丼…海の幸に長い列 浜坂漁港で「海鮮まつり」4年ぶり開催

 今年夏、兵庫県香美町の役場本庁舎。浜上勇人町長が、感謝の言葉とともに、10人のインドネシア人に修了証書を手渡した。10人はいずれも漁業技能実習生で、3~5年間にわたり、底引き網漁船や、ベニズワイガニ漁の漁船の船員として現場を支えた。
 但馬で、最初にインドネシア人の実習生を迎え入れたのは2006年。新温泉町の浜坂漁協が、兵庫県内でも初となる8人を招き、その後も受け入れを続けている。
 「大変な実習を乗り越えられたから今がある」
 同漁協が受け入れた実習生の一人、インドネシア人のウギア・レストゥ・ギナンジャルさん(29)は12年7月に、19歳で来日した。
 雪を初めて見たという但馬で、ズワイガニ漁は想像を絶する厳しさだった。日本海の荒波の中で、一夜に何度も網を入れ、山のように甲板に引き揚げられるカニを洗って、選別して、水槽に入れる。大変な重労働だった。その上に、炊事なども任された。
 「1年目は言葉も分からず、パニックになった」
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 「インドネシア人の実習生は、浜坂の漁業に不可欠の存在だ」。浜坂漁協の川越一男組合長(67)が口調を強める。
 但馬の基幹産業である底引き網漁業。1980年代には漁船が100隻を超えたが、今年は過去最低の40隻にまで減った。漁師町としての活気は薄れつつある。
 人口減少が続く中、船員の高齢化や、過酷な労働環境を背景とする若者離れが進み、各漁船は、人員の確保に苦慮。その中で、インドネシア人技能実習生の存在感は確実に増している。2年前には100人近くに達し、新型コロナウイルス禍で外国人の新規入国停止が続いた今年9月時点でも、全船員332人のうち1割超の54人を占める。
 だが、言葉や文化が異なる「パートナー」との共生は簡単ではない。時に日本人乗組員とのトラブルが原因で実習生の受け入れを停止された漁船もある。
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 19歳で来日したウギアさんは現在も、新温泉町の底引き網漁船「美寿丸」で船員として働いている。
 2015年夏には、船主兼船長である濱根秀樹さん(59)の長女綾華さん(30)と結婚し、家族の一員となった。今年1月には日本の永住許可を取得した。流ちょうな日本語と母国語を使い分け、後輩実習生たちの困りごとや悩みの相談にも応じている。
 15年秋、濱根さんは、地元の浜坂西小学校に打診し、同町の諸寄漁港の漁船で働く実習生と全校児童との交流会を開いた。
 自船の実習生らが異国の地でストレスを抱えず暮らせるように、「子どもたちや住民に身近に感じてもらいたい」と考えたからだ。
 年1度、試みが続く。「見かけだけでない、共生に向けた取り組みが地域に根付いてほしい」。濱根さんはそう願っている。(末吉佳希、金海隆至)
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