「KOBE」の読み方「コベ」ちゃうの? ローマ字表記としては誤り…その背景は

2022/01/05 14:21

撮影スポットとして人気のモニュメント。Oの上に長音符号は付いていない=神戸市中央区

 神戸の記念撮影スポットとして人気のモニュメント「BE KOBE」。その写真を見るたび、モヤモヤした気持ちになる。なぜなら、ローマ字表記の「KOBE」が「コベ」とも読めるためだ。字面として見慣れており、違和感がない人が多いと思われるものの、どうして多用されているのだろうか。日本語を外国人に伝えるローマ字表記としては誤りだが、背景には英語表記との混乱と、デザインとしてのおしゃれさがあるという。(霍見真一郎) 関連ニュース 【写真】神戸駅の駅名は長音符号があるが、後ろの地下街のロゴには付いていない 東おおびん、西だいびん? ビールの大瓶読み方問題、言葉の原則からいうと… 就活、卒論の“敵”はPC スマホ世代「ローマ字変換に頭使う」

 神戸駅も新神戸駅も駅名をよく見ると、表記は「K●be」となっている。Oの上に乗った「-」は、「コーベ」と発音を伸ばす長音符号で、同種のものに「^」もある。しかし「神戸」のローマ字は、大半が「KOBE」で長音符号はない。なぜ多くの標識は伸ばす音を区別しないのか。
 共著書「街の公共サインを点検する」がある岩田一成・聖心女子大教授(47)=日本語教育学=は、日本の交通案内標識の約7割は長音の区別がないという別の研究者の調査も紹介し、「英語表記とローマ字表記で混乱している可能性がある」とする。
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 文化庁が2021年3月に実施した「国語に関する世論調査」(有効回答3794人)には、神戸のローマ字表記で、どの書き方が読みやすいかを尋ねる質問があった。圧倒的1位は55・2%の「K●be」で、「Kobe」は13・6%と3位にとどまった。
 同庁によると、ローマ字表記は、1954年の内閣告示第1号「ローマ字のつづり方」で、伸ばす音には長音符号「^」を付けるよう提案している。世論調査では7・5%が「^」を選び、「-」も含め長音符号があった方がいいとしたのは計62・7%を占めた。
 その他のつづり方について岩田教授は、日本語の音をそのまま表示すると「Koobe」、ひらがな表記に基づくなら「Koube」となり、「Kobe」「Kohbe」は英語表記のルールを日本語に当てはめているという。
 さらに岩田教授は文化庁の01年調査で、在住外国人の8割超はひらがなを読めるが、ローマ字は半数余りしか読めないとの結果を指摘。「外国人への配慮より、国際都市っぽいという装飾的な思惑でローマ字表記が使われているのでは。ローマ字表記は英語ではなく、日本語を伝えるものであることが忘れられがちだ」と強調した。
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 2度目の東京五輪開催が決まった2013年、国際オリンピック委員会会長が、紙に書かれた「TOKYO」を読み上げた発音は「トキョ」だった。長音符号がなければ、HYOGOは「ヒョゴ」、OSAKAは「オサカ」とも読まれかねない。
 「英語は母音の長さではなく、強さで区別する」。ローマ字に詳しい成田徹男・元名古屋市立大教授(69)はこう説く。英語は長音を意識せず、「コベ」でも「コーベ」でもどちらでもいいという。
 英語には長音符号がなく、キーボードに長音符号のキーがないことも指摘。「ローマ字表記は本来日本語の一つの表現方法だが、小学校では英語学習に向け、アルファベットに慣れさせることを主眼に教育していると思われ、混乱が生じているのではないか」と話す。
 「BE KOBE」のロゴ作りに携わったデザイン・クリエイティブセンター神戸(神戸市中央区)の永田宏和センター長(53)は「当時は全く話題に上がらなかったが、ハッとした。ただ、読みやすさとデザインの強さは違う。ロゴに長音符号はなくていいのでは?」と話した。
■パスポートの氏名注意
 日本人が公的文書でローマ字表記を使うことは少ないが、パスポートの申請などでは注意が必要となる。
 兵庫県旅券事務所(神戸市)によると、発給申請書には氏名をローマ字で記入する欄があるが、長音符号は使わない。
 だが「小野」と「大野」など、違う氏名が同じローマ字表記になるのを避けるため、長音の区別をつけたい場合は「OHNO」など、H、U、Oなどを例外的に付けることができる。
 ただ、同事務所の佐野晃一業務担当課長(50)によると「9割以上の人は付けない印象」という。外国に行った後、違う発音で名前が呼ばれたことに違和感を持ち、相談に来る人がいるが、一度申請したローマ字名は変更できないという。
 一方、県教育委員会によると、ローマ字表記は現在、小学3年生で扱い、伸ばす音には長音符号を付けるよう教えている。ところが、同学年で取り組むコンピューター入力では、ひらがな表記通りに神戸は「koube」とタイプするよう指導。このため、教員の中には「長音符号を徹底させると、コンピューターの授業で入力するキーがなく困る」とする声もある。(霍見真一郎)
※●は、Oの上に「-」

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