アウティング、命奪う言葉 性的指向を当事者の同意なく暴露 専門家「誰に伝えるかは本人の権利」
2022/01/07 05:30
トークイベントでアウティングの怖さなどを語る松岡宗嗣さん=昨年12月16日、大阪市内
性の多様性に対する関心が広がる中、性的少数者(LGBT)の性的指向などを本人に無断で公にする「アウティング」が問題視されている。兵庫県内では、尼崎市保健所の幹部が、30代男性職員に公務中のカミングアウトを控えるよう指導した問題が発覚。当事者らは「いつ、誰に伝えるかは本人が決めること」と強調した上で、「アウティングは人権侵害。命をも奪いかねない危険な行為だと知ってほしい」と訴える。(末永陽子)
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アウティングは、性のあり方を本人の同意なく第三者に広める行為。2015年、一橋大の大学院生が同級生に同性愛者であることを暴露され、転落死したことを機に社会問題となった。
同大のある東京都国立市や三重県などは、アウティング禁止を盛り込んだ条例を制定。20年に施行された改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)でもパワハラと定義され、大企業で防止措置が義務付けられた。今年4月からは中小企業にも拡大される。
法整備が進む一方、当事者らは身近な人たちの無理解に心を痛めている。
大阪府の男性(23)は2年ほど前、アルバイト先でのアウティングに苦しめられた。当時、友人が働く飲食店に勤務。その友人にだけ、自身がゲイだと既にカミングアウトしていたが、バイト仲間の飲み会で店長や他のスタッフも知っていることが分かり、ショックを受けた。
聞けば、友人が店長に話し、口止めはしたものの、徐々に広まったという。友人からは「悪気はなかった」「働きやすく配慮してもらうためだった」と謝られたが、男性はすぐに辞職。「しばらく人間不信に陥り、引きこもり気味になった」と、今も心の傷は深い。
尼崎市の保健所では、幹部が19年、バイセクシュアル(両性愛者)の指向がある30代男性職員に対し、「不快に思う市民がいる」と市民団体から指摘があったとし、「性的指向をカミングアウトするのは公務員として不適切」と指導。男性はショックを受け、依願退職した。
ゲイでライターの松岡宗嗣(そうし)さん(27)は、性的マイノリティーの情報を発信する一般社団法人fairの代表も務める。昨秋に「あいつゲイだって-アウティングはなぜ問題なのか」を出版。取材した事例や課題、企業の対応などを盛り込んだ。尼崎市の事例について、国立市の条例などでは、公表を止めることも禁止している点を挙げ、「カミングアウトをするかしないかの自由は、本人の権利」と問題点を指摘する。
昨年12月に大阪市内の書店であったトークイベントでは、「本人のために」「悪意なく」と他人に広めた事例にも触れ、「無意識や軽いノリの行為が当事者を傷つけ、生き方や命を脅かす」と理解を求めた。少数者の権利を守ることが、あらゆる人の生きやすさにつながるとし、「アウティングそのものより、根強い社会の偏見や差別の方が問題」と結んだ。
イベントに参加した50代男性は「言葉の意味や課題など初めて知ることばかりで驚いた。もっと周知されるべきだ」と語った。