灘高教諭、娘を抱いて授業 働き方の「リアル」生徒と考える
2022/02/10 11:00
長女を抱きながら「働き方」の授業をする灘高校の片田孫朝日教諭(左)=神戸市東灘区魚崎北町8(本人提供)
選挙権や成人年齢の18歳への引き下げを踏まえ、高校では2022年度から、主権者教育を担う「公共」が新必修科目になる。社会課題と向き合う教育を目指すが、すでに「働き方」を、より実践的に教えている先生がいる。灘高校(神戸市東灘区)の片田孫朝日(かただそんあさひ)教諭(45)。子育てや身内の過労死など自身の経験にも触れつつ、豊かな生活について生徒に考えさせている。(小谷千穂)
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片田教諭は、灘高で現代社会を担当。長時間労働や男女格差など、教科書の枠を超えたテーマを取り上げている。灘高に来る前は、京都大大学院で社会学を研究しながら非常勤講師をしていた。
男子校で、国内トップクラスの進学校の灘高。将来、政治家や官僚、医者などハードに働く生徒も多く、片田教諭は「働きだす前にこそ、労働について客観的に考えることに意味はある」と考えている。
授業のポイントは「身近な教師を題材にする」。まだ若い生徒たちは、労働環境の実感が持ちづらい。教師が実生活の経験を話すと関心が持ちやすいという。
例えば、仕事と生活の調和を意味する「ワークライフバランス」。教師の長時間労働が問題になる昨今だが、片田教諭は割り切って、定時に仕事を終えるよう心掛けている。帰宅後は子育てや家事を担い、子ども食堂や障害者のグループホームでボランティアをする日もある。
生徒の中には通学や勉強の時間が長く、睡眠が十分にとれないなど、忙しい生活を送る子どもが少なくない。父親の多忙な働き方がモデルになっていることもあり、片田教諭は「人間は、経済を回すために生きていない。自由や健康、生命のほうが大事」と伝えているという。
また「男性の育休」がテーマの授業では、1歳に満たない長女を抱いて教壇に立った。育児休暇や時短勤務をした経験から「赤ちゃんはかわいいだけでなく、自己中心的で大変な生き物。これまで経験したことのない寝不足に苦しめられた」と体験を語り、「子育てはできるだけ協力してやるべきだ」と伝えた。
過労死を扱った授業では、システムエンジニアの息子を亡くした母親が講演。終了後、片田教諭は生徒に「自分の父も過労の末に亡くなった。決して遠い問題ではない」と語った。
「生徒の心にどう残るかは分からないけど、ふとした時に思い出してくれたら」と片田教諭。今も海外の事例を調査しながら、男女のワークライフバランスについて研究を続けている。「大人になるのは楽しそうだと、子どもたちが思える社会になってほしい」と願う。