男だから女だから…自分の中の「当たり前」疑って〈悪意はなくても~尼崎市アウティング問題から〉(6)

2022/05/30 05:30

兵庫県猪名川町立清陵中学校の生徒会役員たち。生徒一人一人が笑顔で学べる学校を目標にしている=猪名川町原(撮影・斎藤雅志)

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 大阪の大学院に通うトランスジェンダーの香さん(23)=仮名=が伝えると、中学生たちは真剣な顔で聞き入った。体は女性、心は男性で、女性パートナーがいる。
 性的マイノリティーの大学生らが小中学校、高校で経験を語るサークル活動の一環だ。関西の複数の大学から10人が参加している。
 生徒から熱心な質問もあり、パートナーへの思いを答える。「傷つきたくないし、生きづらさはあるけど、付き合いを続けている」
 小中学校の教科書には性的マイノリティーの記述も加わり、若い人ほど理解者は多いと感じる。香さんは関西学院大学(兵庫県西宮市)の当事者サークルにも顔を出し、ざっくばらんに悩みを相談しあう。登録する学生は80人に上る。
 きっぱりと言った。「自分のことを人に伝えたいとき、仲間と一緒ならできる」
   ◇    ◇
 社会的な認知度の高まりとともに、性差にこだわらない制服を模索する学校が増えている。今年4月に開校した兵庫県猪名川町立清陵中学校はその一つ。併合した2校の生徒会が議論し、スラックスかスカート、ネクタイかリボン-を自由に選べるようにした。
 3年の清水ちよ子さん(14)はスラックス姿。スカートの日もあるが「身だしなみに気を使って勉強に集中できないこともある。女だからスカート…という意識はなくて、はきたい方をはくだけ」と笑う。
 男性でも女性でも性的マイノリティーでもなく、その人が自分らしいと思う「ありのまま」をみんなが受け入れたらいい。生徒会はそんな意見でまとまった。
 大阪、兵庫の当事者や教員らで立ち上げた「新設Cチーム企画」代表の塩安九十九さんは、戸惑いはむしろ教える側に多いとみる。
 「学校で学んだ機会がなく、知識も少ない。傷つけまいとする配慮が逆に当事者を傷つけることもある」。そこで、自分の中にある「当たり前」を疑ってほしいと制作したのが、小学生向けの教材動画「性別思い込みあるある」だ。
 紙芝居のようにして音楽に乗せて問いかける。
 「男の子がピンクのかばんだなんてオカマみたい! ちょっと待って? なぜそう思うの?」
 「家族を始められるのは男と女だけ? それって、思い込みじゃない?」
 そこには性に限らず、家族のありよう、国籍、障害、アレルギーを含め、誰もが持つマイノリティー要素を自分ごととして考えてほしいとの願いを込める。
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 尼崎市のアウティング(暴露)問題についてNPO法人虹色ダイバーシティ代表の村木真紀さんは「行政が『多数派の意識』の在り方を問い直したことに意味がある」と評価する。市は、退職したバイセクシュアルの男性職員の協力も得て、職員研修の題材とする予定だ。(西尾和高、浮田志保、広畑千春)=おわり=
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