沖縄戦に巻き込まれた少年の物語 悩み、叫びながら仕上げた絵本の原画 14日から京都で展示

2022/06/10 10:15

絵本を手にして創作過程を振り返る田島征彦さん=淡路市

 沖縄戦の絵本を手がけた絵本作家で染色作家の田島征彦(ゆきひこ)さん(82)=兵庫県淡路市=が、14日から原画の展覧会を京都市中京区のギャラリーヒルゲートで開く。戦火の中を逃げ惑う主人公に、泣き虫だった幼少期の自分を重ねて創作した。悩んで叫びながら仕上げたという原画や、幅3メートルに及ぶ型染めの大作など約50点を披露する。 関連ニュース 半世紀前に描いた「平和な島」実現、どれだけ近づいたか 沖縄復帰50年 出身記者が郷里訪ねて 兵庫から沖縄へ思い寄せ 友愛提携結び交流 【写真】沖縄戦直前の空襲映像14本公開

 絵本は「なきむしせいとく 沖縄戦にまきこまれた少年の物語」(童心社)。堺市生まれの田島さんは太平洋戦争中、米軍機の機銃掃射を生き延び、空襲で憧れの女の子を亡くした経験を持つ。本書では型染めによる絵と文を手がけ、沖縄の本土復帰50年を控えた4月末に発行。平和を願う心を「未来の大人に伝えているんです」と語る。
 舞台は1945年の沖縄。国民学校2年生で泣き虫のせいとくが、米軍の激しい攻撃や日本軍の横暴にさらされ、母や妹と逃げる苦難を描く。深く傷つきながらも「ぼくはなきません」と誓うようになる。力強いまなざし、固く結んだ口元は、何を訴えるのか-。
 戦後、米軍が人々の土地を強制接収して軍事基地にする場面も描く。田島さんは「今につながっている」物語として世に問う。
 長らく沖縄戦の膨大な手記を読み、体験談を聞くうち、何度も行き詰まった。2年前、物語が固まらないまま、描ける場面から取り組んだ。「とりつかれるように、ずっと絵本の世界に入った。急に叫びだしてしまうことがあった。あまりに残酷なことを想像して…。僕自身が完全にせいとくになりきっていた」。激情が画面にあふれ出した。
 「日本がもう二度と戦争を繰り返さないために何ができるか。武器を持つのではなく、話し合う勇気、努力が大事だ。後押しに僕の絵本が役立つのではないか。少し自信がでてきた」
 26日まで。20日は休廊。ギャラリーヒルゲートTEL075・231・3702
 絵本は49ページ。1760円。童心社TEL03・5976・4181
(小林伸哉)

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