「人の命救う以外の正義ない」歌手・加藤登紀子さん チャリティーアルバム発売でウクライナ支援
2022/06/29 20:15
ウクライナからの避難民支援のチャリティーアルバムに、反戦の思いを込めたと話す加藤登紀子さん=大阪市
歌手の加藤登紀子さん(78)が、ロシアの侵攻で避難生活を送るウクライナ市民を救おうと、チャリティーアルバム「果てなき大地の上に」を発売した。7年ぶりのオリジナルアルバムで反戦、生命の尊さを歌った7曲を収録した。かつて、自らもキーウ(キエフ)を訪ねるなど現地に知人もいる加藤さん。「無謀な戦争に勝者はいない。多くの人が正義を掲げるが、人の命を救う以外の正義はない。一日も早い終息を願っている」と話している。(津谷治英)
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加藤さんは1943年、現在は中国のハルビンで生まれた。現地への鉄道開発に力を注いだロシアの影響が強い都市で、今も当時の名残を伝える建物がある。父の幸四郎さんがこの地に留学してロシア語を学んだことがきっかけで、戦中は一家5人で暮らした。
第2次世界大戦後の混乱の中、家族は命からがら日本へ帰国。加藤さんが2歳の時だった。ロシア文化に造詣が深かった幸四郎さんは戦後、東京と京都にロシア料理店を開いた。京都の店名は「キエフ」。現在はウクライナの首都の名だった。東京の店には両国ゆかりの人が出入りし、コサックの娘が調理を担当していた。加藤さんは少女時代から、ロシアとその周辺地域の文化を身近に感じて育った。
歌手デビュー後はジョージア、リトアニアなどを旅した。代表曲「百万本のバラ」は、ラトビアの子守歌に加藤さんが日本語訳詞を添えたものだ。
今回、キエフは激しい戦火に包まれ、多くの市民が命を落とした。都市名もキーウと呼ばれるように。23年前、加藤さんはこの街を訪ねた。原発反対を訴える中、チェルノブイリ原発事故の被害者が避難していることを知り、慰問したのだ。ロシアの侵攻を知った時、「真っ先にあの人たちの顔が浮かんだ」。
加藤さんは両国の複雑な歴史を、激戦地の南部オデッサからひもとく。ロシア革命の動乱をモチーフにした映画「戦艦ポチョムキン」(1925年)の舞台にもなった。
「革命、戦争を何度も経験してきたが、この街、地域が直面した問題は武力で解決できなかった。戦火が長引けば、人々の苦しみが増すだけ」と胸を痛める。
新しいアルバムは反戦への強い思いを込めた。その1曲、「果てなき大地の上に」は自身が作詞、作曲したオリジナルの新曲。ギターが奏でるフォーク調のメロディーに乗せ、こう歌う。
〈♪何のための戦争だったか ♪どれほど人が傷ついたか〉
そして魂を込めて叫ぶ。
〈No War〉と。
その他、米国のフォークシンガーのピート・シガー作曲の「花はどこへ行った」には加藤さんが訳詞を、ジョン・レノンの「イマジン」には日本語歌詞を添え、戦争のむなしさ、愚かさを訴える。
アルバムの収益金は、原発事故被害者の支援を続ける医師の鎌田実さんが代表を務める日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)を通じて寄付。ウクライナ国内やポーランドに避難している人らの食料、日用品の購入費に充ててもらう。
加藤さんは米国をはじめ西側諸国が軍事支援を続ける現状にも疑問を呈す。「戦争をしない国、日本から『No War』を訴えたい」と表情を引き締めた。
◇
加藤さんは8月20日午後4時から、大阪・新歌舞伎座(大阪市天王寺区)でコンサートを開き、アルバム曲も披露する。
アルバム「果てなき大地の上に」は2200円。日本チェルノブイリ連帯基金(TEL0263・46・4218)に申し込む。メールasama@jcf.ne.jp