低い投票率、尼崎市長「良い政治は勝手に生まれない」加古川市長「若い世代が関与を」
2022/07/02 20:10
自身が政治家になった経緯や若者の投票行動について語る稲村和美・尼崎市長=尼崎市役所(撮影・長嶺麻子)
10代、20代の投票率は他の世代と比べて低い。なんで? と問えば「誰に投票しても変わらないから」「自分たちとはあまり関係ないから」。でも、本当にそうだろうか。若くして政治に関心を持ち、自ら政治家の道を歩んできた2人の市長に聞いた。
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■稲村和美・尼崎市長(49)に聞く
若い頃は「選挙に行かないって何となく中立っぽい」、そう思っていた。でもそれは「新しい考え方を支持しない」「現状に満足している」という意志表示。もし現状を変えたいなら、黙っていてはだめ。良い政治家が勝手に出てきて、良い政治をやってくれることはない。
「政治」を初めて実感したのは阪神・淡路大震災が起きたとき。当時は神戸大生でボランティアをしていたが、被災者の住宅再建に公的なお金を出して支援する制度がなかった。
支援できるようにするには、税金の使い方を変えるしかない。でも、そのためには納税者の合意がいる。みんなを納得させて行政を動かすために署名を集めたり、勉強会に参加したりするうち「あ、政治ってこういうことか」と気付いた。私はその延長で政治の世界に入ったが、こういう経験はなかなか身近にはないだろうな、とは思う。
投票は義務ではなく権利だ。もちろん行使した方がいいが、「入れたい人がいない」という声にもうなずける。だから、もっと多様な立候補者が必要。今はいったん政治家になれば、ずっと政治家のままの人が多い。一族が政治家という人もいる。世襲が悪いわけではないが、市民と政治との間に距離を生んでいる一因かな。もっと政治と民間の領域を自由に行き来できる社会がいいと思う。
投票は政治参加の第一歩だけど、唯一無二のチャンスではない。今はインターネットがあるので、政治に声を届けたり、自分の意見を発信したりしやすくなっている。課題解決に当たる政治家も無関心ではいられない。そういう経験を重ねるうち、いいなと思う政治家や政党が見つかり、政治との距離感も縮まってくるのでは。(聞き手・堀内達成、撮影・長嶺麻子)
【いなむら・かずみ】証券会社社員を経て2003年、30歳で兵庫県議に初当選した。10年に38歳で尼崎市長に就任、当時は全国最年少の女性市長だった。現在3期目。
■岡田康裕・加古川市長(46)に聞く
私の20代は大学を出て働き始めたころで、自分のことでいっぱいいっぱいだった。そう考えれば、今の若い人の投票率が低いのも正直仕方ない面もある。普通に就職して生活できていたら、公共に頼っている実感はわきにくいから。
なのに、29歳で衆院選に立候補した。仕事先で時事問題が話題になることも多く、政治のニュースに関心はあった。当時は税金の使い道がおかしいとか、地球温暖化のこととか。意識は高いほうだったのかな。
選挙で投票したり、意見を発信したりしないと、政治が一部の人たちに任せきりになってしまう。若い現役世代が政治に関わらなくてはという思いもあった。立候補なんて、今振り返ると、若さゆえの過信や選挙の大変さを知らない無知も強みだったのだろう。
落選はしたが、自分なりに社会の課題について考えたし、意見も持てた。あるとき、年配の女性から「どういう生活実感に裏打ちされて立候補したのか」と聞かれた。勉強の知識はあったけれど、人生経験が少ない。耳が痛かった。
でも、若い人が選挙に出ることで、同世代が政治に興味を持つきっかけにもなっているのではないか。「あの人が当選しているんだから自分にもできるはず」とかね。そういう好循環が生まれていると思う。
暮らしは国政と無関係ではない。新型コロナウイルスの感染拡大で自治体はさまざまな生活支援策を打ち出してきたが、多くは国からの補助金を活用している。
参院議員は任期が6年。落ち着いて政治活動ができる。自分の未来と重ね合わせ、例えば、エネルギー問題はどうなる? など長い目で各候補者や政党のスタンスを見ていくと、面白い発見があるかもしれないですね。(聞き手・綱嶋葉名、撮影・辰巳直之)
【おかだ・やすひろ】経営コンサル会社社員を経て34歳のとき、衆院選で初当選した。2014年に38歳で加古川市長に就任、当時は県内最年少の市長。このほど3選を果たした。