出産前後、しんどいときに一人っきり… コロナ禍で面会制限や外出自粛 母親の孤立防ぐには
2022/07/03 11:56
「あろまマルシェ」では、母親が赤ちゃんの体をほぐしたり、自身の体のケアを受けたり…=神戸市垂水区
今なお終息が見通せない新型コロナウイルス感染症の流行は、出産前後の母親の孤立を深める要因となっている。入院した産科病院などの面会制限で家族と直接会話する機会が激減。外出自粛で退院後の友人との交流も減ったためだ。そんな母親たちに寄り添う神戸市内の育児支援団体を訪ねた。(津谷治英)
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6月中旬、神戸市垂水区の古民家カフェに約10組の親子が集った。「あろM(マ)aM(マ)aけあ」が開く「あろまマルシェ」。母子のマッサージが中心の集いだ。
「あっ、寝返りを打てたね」
その場にいた母親やスタッフがそろって笑みを浮かべた。
■長時間2人きり
出産前後の母親はコロナ禍以前から孤立しがちだ。退院直後は家族の十分なサポートがないと、赤ちゃんと2人きりの時間が長くなり、孤独感を抱きやすい。
神戸市垂水区の主婦上村梨奈さん(26)は、4カ月の長男とこの集いに参加した。
出産時、コロナ禍で病院は面会を制限。夫と対面できたのは長男が誕生した日だけだった。連絡手段は通信アプリ「LINE(ライン)」中心で、自身や夫の両親にも会えなかった。
「陣痛のときや、出産前のしんどいときに一人っきり。心細かった」
退院後は夫が気遣ってくれるものの、仕事で常に側にいてくれるわけではない。ママ友と出会う機会もなくなり、長男が泣くと、「何でだろう」と1人で悩みを抱え込んだ。
産科病院でケアを受けた「あろMaMa-」代表の今井由芽(ゆめ)さん(43)の勧めで集いに参加するように。「この場と巡り合えていなかったら、家に閉じこもっていたかも」と打ち明ける。
■全国が緊急事態
今井さんはアロマコーディネーター。息子3人を育てながら、夫の転勤で京都や千葉を転々としたが、夫は仕事にかかりきりで、頼れる親類や友達もおらず、孤独だった。
次男を出産したときにアロママッサージを受け、癒やされたのを機に、自らも資格を取得。産科病院などで妊婦や母親のケアを始めた。
育児経験のある看護師、保育士、主婦らと「あろMaMa-」を設立したのは5年前。母親同士やスタッフと交流を深める居場所として母子ケアの集いを始めた。多い年は延べ約2500組が参加したという。
ところがコロナ禍になり、緊急事態宣言が発令される度に、屋内の活動を自粛。ある夜、母親の一人が泣きながら電話をかけてきた。育児に疲れ、赤ちゃんを抱いて家を出たという。
「まさにSOS。全国の母親が緊急事態だ」。居ても立ってもいられず、母親の元を訪れ始めた。昨年の訪問件数は55件。抵抗のある人向けには公園で屋外イベントを開くなどしてきた。
■睡眠不足を懸念
孤立する母親について、今井さんは「出産前から付き合いがあると、産後もサポートしやすい。妊娠期からのコミュニケーションは大切」と強調する。
退院直後は授乳や夜泣きで睡眠不足も懸念される。「イライラの原因になる。コロナ禍に出産した母親は特に心配。夫が積極的に育児参加するなど家族や周囲の人たちはしっかりと支えてほしい」と呼び掛けている。
■産後のサポートが重要
コロナ禍の母親の孤立について、加古川市の兵庫大学看護学部の中村朋子准教授(母性看護学)に聞いた。
感染拡大後、出産を担う医療機関の多くが面会を制限した。配偶者の立ち会い分娩(ぶんべん)を中止したところも少なくない。中村准教授は「妊婦は1人で出産し、親に孫の誕生を喜んでもらったり、育児の助言をもらったりする機会を奪われた。夫が父性を実感する立ち会い分娩がなくなると、その後の育児にも影響する」と指摘する。
対策として産後サポートを挙げる。赤ちゃんが1カ月健診を受け終えると、出産した医療機関との関係は疎遠になるため、特にその後が重要とする。「夫が単身赴任で不在だったり、近くに頼れる家族や親戚がいなかったりした場合、育児教室など行政や民間による支援にどうつなげるかが課題になる」。中村准教授はこう強調している。(津谷治英)