新型コロナウイルスの緊急事態宣言が長引く中、出産を控えた妊婦が不安を募らせている。医療体制が逼迫(ひっぱく)するタイミングで身ごもった女性たちは、里帰り出産の自粛を求められるなど、メンタル面でのサポート体制も弱い。母親学級の中止による情報不足も重なり、産後も悩みは続きそうだ。(佐藤健介)
「自分のせいで、この子に何かあったら…」
今春、出産予定の30代女性=神戸市須磨区=は大きいおなかをさすり、表情を曇らせた。
仕事は看護師。対応する患者にはコロナ疑いの人もいるが、防護服は医療スタッフに行き渡っておらず、手袋やエプロンだけのことも多い。常に感染の危機にさらされている。
母子感染しやすかったり、新生児の重症化リスクが高かったりする科学的根拠は今のところないとされている。それでも不安は消えない。
上の子どもが生まれた時は初産のプレッシャーで精神的に不安定となり、しばしば自分を責めて涙を流したという。救いだったのは、里帰り出産で滞在した実家。「親がご飯の用意など家事を担ってくれたおかげで気分転換ができた」と振り返る。
だが今回は感染予防で移動を自粛し、里帰りを断念。夫の実家には糖尿病など基礎疾患を持つ人がおり、重症化リスクがあるため立ち寄れない。
「家族以外に頼れる人がいない。その家族が感染したら子どもを守れるのか。子育て支援の行事も中止ばかりで、不安をはき出す場所もない」と頭を抱える。
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妊娠中のコロナ不安を和らげる取り組みは少しずつ広がっている。
兵庫県は、陽性判定を受けた妊婦に対し、保健師が電話や自宅訪問で無料相談に応じる体制を整備した。
厚生労働省はQ&Aをホームページに公開。「妊婦が感染しても基礎疾患がなければ、経過は同年代の女性と変わらない」と説明。胎児の先天異常や母乳を介した感染の可能性も「リスクは低い」としている。
それでも、悩みや戸惑いを訴える声は強い。
日本周産期メンタルヘルス学会は昨年7月、会員の産婦人科医や精神科医、助産師らに、妊産婦の心理状態の調査を実施。回答者の6割以上が、昨年3~6月に妊産婦からコロナに関する心の不調について相談を受けていた。
内容は「面会や立ち会い出産、里帰り出産、両親学級など、本来のサポートを受けられない」「感染の恐れで外出や受診ができない」が多かった。「在宅勤務や失業で家にいる時間が増えた夫との関係が悪化した」といった悩みもあった。
同会は「相談窓口など、従来は医療や行政が対面で行っていた支援のオンライン化が、喫緊の課題だ」と指摘している。