日朝首脳会談20年 事態進展なく「時間ない」 拉致被害者の父、94歳有本明弘さん
2022/09/16 18:50
拉致被害に遭った娘の有本恵子さんの写真を抱え、日朝首脳会談当時を振り返る明弘さん=神戸市長田区
北朝鮮を初訪問した小泉純一郎首相と故金正日総書記による日朝首脳会談から、17日で20年となる。会談では、北朝鮮側が初めて日本人拉致を認めて謝罪。その後被害者が5人帰国するなど、解決への扉が開いたように見えた。神戸市出身の被害者、有本恵子さん=失踪当時(23)=の「死亡」を伝えられた父明弘さん(94)にとって苦々しい記憶というが、「恵子はきっと生きていると思う。会いたい」と強い思いをあらためて口にした。
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明弘さんは会談を「評価していない」と話す。恵子さんらが「死亡した」とされたためだ。当日は「政府から『亡くなりました』と言われて信じた」というが、その後、根拠はないことを知った。「(政府は)だまされたんだ」
会談後、一部被害者が帰国した様子は、羽田空港で遠巻きに見守った。「帰ってきた、よその子に声かけても『良かったな』としか言えない」。そっと神戸の自宅に戻り、旧知の記者と缶ビールを飲んだら、涙があふれてきた。
その帰国以降、事態に大きな進展はない。「拉致は認めたが、帰した人だけで終わり、と北朝鮮は区切りをつけた」と憤る。
会談に同行していた安倍晋三元首相(当時は官房副長官)は問題解決に力を入れていた。その後の安倍政権は米国との関係を密にして、北朝鮮に圧力をかけているように見えた。当時、「これはいけるかも」と光を感じていただけに、その死を惜しむ。
「私が生きているうちに恵子を抱きしめたい」と話していたという妻嘉代子さんは2年前、94歳で亡くなった。明弘さんは「100歳近くになり、これから何年も生きられない」と、切実さをにじませた。(霍見真一郎)