「働かないおじさん」批判に物申す アース製薬の川端社長 42歳で9人抜き大抜擢

2022/10/08 10:00

自社商品は「子どもと同じ」と語る川端克宜・社長CEO=東京都千代田区神田司町2、アース製薬本社

 虫ケア用品(殺虫剤)最大手、アース製薬(本社・東京)の川端克宜(かつのり)社長CEO=兵庫県明石市出身=は8年半前、42歳の若さでトップに就いた。40歳で早々とオーナー家の前社長から後継指名を受け、末席の役員から9人抜きで大抜てきされた。まさに「実力主義」の象徴といえるが、意外にも自身は「年功序列」や「終身雇用」といった日本的雇用システムを高く評価しているという。新型コロナウイルス禍による「巣ごもり需要」を追い風に、2021年12月期は売り上げ・利益ともに過去最高を更新した同社。川端社長CEOに、好調を支える企業風土と自身の哲学について聞いた。 (田中伸明) 関連ニュース 【写真】アース製薬の生物研究棟 殺虫効果UPへの協力に感謝 アース製薬が虫供養 「ゴキブリ目線」インスタが人気!?アース製薬の挑戦スゴすぎGの冒険に「逃げて~!」「それ罠やで!」「顔めがけて飛べ!」と感情移入


 -年功序列や終身雇用をどう思いますか。最近は「働かないおじさん」を生む悪弊と批判され、旗色が悪い。
 「僕は好きですよ。悪い文化とは思わない。人間は誰だって年を取るし、思うに任せないことも増える。若い頃はイメージが湧きにくいですよね。でも、おっちゃんだって意地があるし、根性出すときもあるで、と社員に伝えています。甘えにつながらないようにしないといけないけれど、先輩たちをリスペクトして、自分たちも大切にされるという職場環境はあるべき姿だと思います」
 「人を大事にする企業、家族のような企業は、ここぞというときに強みを発揮する。ただ、僕もそうだけれど、後輩が上司になる場合があるのは理解してもらわないといけない。終身雇用の良さも実力主義の良さも、シーソーのようにバランスが取れているのがいいと思うんですよ」

 -「ごきぶりホイホイ」や「モンダミン」などのロングセラーを生む企業風土をどう分析しますか。
 「商品は子どもと同じやで、と社員に話しています。すぐには売れない商品もあるけれど、優劣はつけず、なぜ売れないかを突き詰める。本来は売れるはずやのに、パッケージが悪いのかもしれない。もしかしたら時代が早すぎただけで、もう一度商品化したらうまくいくかもしれない。あきらめずに育てていく文化が企業のDNAとしてあると思います」

 -自身はアース製薬一筋。「生え抜き」という意識はありますか。
 「生え抜きは偉くて、中途入社は偉くないという議論は好きじゃない。僕はたまたま生え抜きですけれど、社長になってからは中途採用の社員をバンバン採用している。ダイバーシティ(多様性)は企業を活性化させます。男女に関係なく、外部の意見を聴くことも大切です」

 -髪型を変えるのがお好きとか。それも多様性の現れでしょうか。
 「散髪に行って『いつもの』と言うことはないですね。店のお兄さんにそそのかされて、いろいろ変えています。白髪を染めるときに、基本は黒やけど、気分によって黒以外の色に染めることもある。近い将来にはシルバーに染めて、そのまま白髪で通そうかとも考えています。僕の影響か、本社にはTシャツにジーパン姿の社員が増えました。TPOだけはわきまえて、清潔感があれば、自由でいいと思います」

 -社長就任は42歳の時でした。年上の部下を動かすコツは。
 「年上も年下も関係なく、同じように接することかな。先輩に『おい、お前』とは言わないけれど、人を見て態度を変えることはしません。常務だろうが新入社員だろうが、フラットに本音で接しています」

 -川端さんは兵庫県明石市二見町の出身。子育て施策や歯に衣(きぬ)着せぬ発言で知られる泉房穂・明石市長と同郷です。
 「泉市長は母校の二見中学校の先輩。飾らず本音で話すスタイルは、僕も共通点があります。二見町はもともと漁師町で、言葉は少々荒いけれど、人情味のある良い町です。僕も小学生の頃は『ダボ(バカの意味)』『ワイ(一人称)』を連発していました。土地柄から受けた影響はあるかもしれません。なかなか帰る機会はないけれど、今も実家があるし、友達もいる。愛着がありますね」

 -時間の余裕ができたらやってみたいことは。
 「いろいろありますが、好きな楽器を究めたいですね。子どもの頃に習わされていたピアノを、もう一度習ってみたい。近所迷惑になるのでなかなか吹けなかったトランペットも、もう一度やりたいですね」

【かわばた・かつのり】1971年に母の実家がある赤穂市で生まれ、明石市で育つ。近畿大商経学部(現経営学部)を経て、94年にアース製薬入社。2012年に大塚達也社長(現会長)から後継指名され、14年に社長に就任。21年に社長CEO、グループ各社取締役会長。

【アース製薬】1925年、赤穂市で木村製薬所として設立。創業は1892年。64年に現社名へ変更、70年大塚グループが資本参加した。91年に東京へ本社移転。虫ケアや除菌の技術の蓄積を生かし「感染症トータルケアカンパニー」を目指す。

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