「和牛五輪」挑む多様な兵庫県勢14頭 ブランド向上へ、歩行や立ち姿など訓練 鹿児島で開幕

2022/10/09 05:30

これぞ但馬牛の精鋭。全共に出品する生産農家の誇りと威信を懸けて練習が行われた=9月16日、新温泉町歌長(撮影・末吉佳希)

 「和牛のオリンピック」といわれる第12回全国和牛能力共進会(全共)が6日、鹿児島県で開幕した。全国の多くのブランド牛のルーツともされる但馬牛(うし)を擁する兵庫県からは代表牛14頭が出品される。他県産とは交配させない「閉鎖育種」を守り続けるため、生産農家や研究機関、行政が一体となって遺伝的な多様性の確保に力を入れながら、改良を重ねてきた。「オール兵庫」の誇りと威信を懸けた戦いが7日以降、本格的に始まる。(桑名良典) 関連ニュース 「和牛の聖地」で廃村集落ツアー、「EXILE」メンバーも参加 但馬牛の歴史紹介 兵庫・香美町 えっ、3900円!?…焼肉激戦区でA5クラスの高級肉が食べ放題、企画した店長の思い 業界初!?期間限定で近江牛のTボーンステーキが食べられる焼き肉店


 9月16日、JAたじまみかた畜産事業所(新温泉町歌長)に、全共に出品する一部の牛が集められた。入場や整列の動きを教え込むためで、本番前に生産農家が毎回、合同で練習する。
 大会の花形とされる第6区(総合評価群)に出場する雌牛4頭が順に並ぶ。いずれも種雄牛「照和土井」を父とし、繁殖用雌牛として子牛を生む能力が評価される。
 「ほれ、ちょっと貸してみ。年を取ったが、みんなの役に立つ仕事はするで」
 歩行訓練を終えた後、上田伸也さん(51)=香美町=が育てた出品牛「おふくてる」の調教を、村尾和広さん(69)=新温泉町=が始めた。500キロ近い牛と約15分間向き合い、「ほーれ、ほれ」と牛から離れた位置に立ち、長縄をたぐり寄せて、辛抱強く立ち姿などを矯正していく。
 姿勢を保持できるようになると、体をさすりながら、すかさず牛を褒めた。その様子を上田さんは、息子らにスマートフォンで撮影し記録を残すよう指示した。
 父の「照和土井」は、平成初期に活躍した種雄牛「照長土井」の流れをくむ。全共の6区で評価されれば、生まれた子の評価も上がるため、関係者の期待が高い。
 第1区は、肉量と肉質に優れた牛をつくる能力があり、次世代の種雄牛になることが期待される精鋭がそろう。代表に選ばれたのが中井勝さん(63)=新温泉町=の「茂鐘波」だ。
 但馬牛の主な系統は、美方郡で育まれてきた中土井系と熊波系、旧城崎郡を中心に飼育されてきた城崎系に大別される。しかし、1970年代以降、中土井系の特定の種雄牛に交配が集中したため、長年、血統の多様性維持が将来的な課題となってきた。「茂鐘波」は熊波系の流れをくむ一頭だ。
 9月23日、養父市大薮の但馬家畜市場では、繁殖用雌牛を3頭1組で出品する第4区(繁殖雌牛群)の練習が行われた。現在は衰えてしまい、再構築を目指す系統が対象となる部門で、3頭とも城崎系に連なる。
 谷口衣津美さん(61)=豊岡市=が出品する「ゆりか2」を、淀貴至さん(45)=香美町=が爪の手入れや散髪をしていた。それを見守りながら、谷口さんは「城崎系は、もう希少種みたいなものだけど、ここにいる農家の牛たちはみな、元気な子を産み、乳量も多く、子育て上手。繁殖用として優秀なのよ」と目を細める。

■出発式で気合十分 9日まで審査
 10月3日午後7時、但馬家畜市場。生産農家らが集まり、全共に向けて出発式が開かれた。すでに牛は、昼過ぎに800キロ以上離れた鹿児島に向かっていた。
 生産農家を代表して中井さんが「但馬牛は確かに小柄だが、改良を重ね、随分と大きくなってきた。畜産農家は飼料高騰などで厳しい環境にあるが、頑張って結果を残し、但馬牛の名声を上げてきたい」と力強く語った。この後、バスで牛を追い掛ける形で出発した。
 4日午前10時には無事に会場入り。県畜産課によると、5日には体高や胸囲など測定があり、次第に緊張感が高まってきたという。6日には、県の服部洋平副知事やJAたじまの太田垣哲男組合長が、現地での激励会に参加した。
 同日午後からの高校・農業大学校を対象とした特別区を皮切りに、9日までに種牛の部、肉牛の部を合わせて全9区で審査が行われる。
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■共進会出場者
【種牛の部】若雄の部(15~23カ月齢)茂鐘波=中井勝(新温泉町)▽若雌の部(14~17カ月齢)こうふく735=上田伸也(香美町)▽同部(17~20カ月齢)ただにしき=中村文吾(新温泉町)▽繁殖雌牛群 城崎和牛育種組合 まりな6=淀貴至(香美町)、ゆりか2=谷口衣津美(豊岡市)、よしの=小牧伸典(豊岡市)▽総合評価群 美方郡和牛育種組合 おおみぞ7の3=村尾和広(新温泉町)、ちはるふく3=中村文吾、おふくてる=上田伸也、よしふく5=植田秀作(新温泉町)▽特別区 はなみ=県立農業高
【肉牛の部】総合評価群 幸、和春=県立農業高、照強=県立農業大学校
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【全国和牛能力共進会】全国の優秀な和牛を一堂に集めて、改良の成果やその優秀性を競う大会。5年に1度開かれる。全国和牛登録協会(京都市)の主催で、1966(昭和41)年に始まった。全国の和牛関係者にとっては、優秀な成績を収めることが、各道府県の和牛のブランド力の向上につながるため、最も重要な大会とされる。今回の鹿児島大会も全国から約440頭が出場する。兵庫県勢は第1回から毎回出場を重ねている。

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