児童養護施設で育った私、職場には3人の母がいます 「職親」として若者の自立を支援する経営者との絆
2022/11/07 19:35
児童養護施設を退所して働く女性(左)と、自立を見守る「職親」の松下真由実さん=明石市魚住町錦が丘4
虐待や貧困、親の不在などを理由に児童養護施設で暮らした後、自立して働く若者に対し、仕事を通じてサポートする「職親」という取り組みがある。兵庫県内の中小企業経営者が提案し、昨夏から少しずつ広がってきた。兵庫県明石市の人材派遣会社で働く女性(21)と、職親として寄り添う経営者を取材した。
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「注意してくれたり、褒めてくれたり、会社にはお母さんが3人いるみたいな感じ。この縁を切ったらあかんと思っている」
昨年7月から、同市魚住町錦が丘4の人材派遣会社「メタルテック」で事務の仕事などを担う女性は、そう話す。だが、働き始めた当初は「続けられると思っていなかった」。無断欠勤や遅刻もした。「生きるのがしんどかったから」-。
◇
4歳から児童養護施設で暮らしてきた女性。18歳で施設を退所し、大阪の専門学校に通うため、初めて1人暮らしをしたが、「学校は3カ月で行かなくなった。お金は遊びに使った」。学校を中退した女性を施設の関係者が迎えに来て、施設に戻った。
そんな女性に支援の手を差し伸べたのが、施設でボランティアをしていた加古川市の生活雑貨販売会社社長、水野和美さん(60)だ。施設を出た若者たちが孤立し、さまよっている現状に心を痛め「仕事を通じて親のように見守る活動」を考えていた。
兵庫県中小企業家同友会女性部で共に活動する「メタルテック」社長の松下真由実さん(61)に、女性の雇用を相談した。
松下さんは「職親」の考えに賛同。昨年7月、女性はアルバイトとして働くようになった。だが、仕事に慣れてきた冬ごろ、大阪に遊びに行って無断欠勤し、連絡がつかなくなった。職場は大騒ぎになった。
その後、会社に姿を見せた女性を松下さんは「みんながどんだけ心配したか分かってるの!」と泣きながら叱った。女性は「施設以外の人が自分のことを心配してくれるのを見て、『えっ?』て。申し訳ない気持ちになった」。
これが一つの転機になった。松下さんは女性に「人生、甘くないよ。特別扱いする気はないよ。だって、一緒やもん」と言い続けてきた。今春からは契約社員になり、1人暮らしをする女性は「前は『施設で育ったから』って言い訳みたいに思ってたけど、そういうのが変わった。自分で稼いで生活するのは楽しいし、与えられた仕事を一生懸命やろうと思う。いつかは車の免許を取りたい」。
そんな彼女の隣で、松下さんは「生きていくための自信を付けてほしい」と話した。
◇
現在、水野さんと松下さんが中心になり、企業に呼びかけている「職親」には、100社ほどが賛同しているという。実際の受け入れはまだ「数社」と松下さん。16日午後5時半からは、神戸市中央区京町のレストラン「itsu葉(いつば)」で、企業経営者向けに「職親勉強会」(兵庫県中小企業家同友会女性部主催)を開く。実例報告や討論も。参加費は懇親会費を含め5千円。申し込みはメタルテックTEL078・940・6815
(中島摩子)