「先生も夢、追ってくる」自転車で世界一周に挑戦 神戸の元美術教師、教え子たちに伝えた思い

2022/11/22 17:05

愛車「RISE」とともに旅に出る前渕直也さん=三田市小野

 大学時代に自転車で日本一周を達成した前渕直也さん(29)=神戸市北区=が来年2月、世界一周の旅に出る。今春まで神戸市内の中学校で美術教師をしていた。これからは行く先々で風景や出会った人たちを描くつもりだ。退職前、教え子たちに伝えた。「みんなは何にでもなれるし何でもできる。先生も夢を追ってくるね」(喜田美咲) 関連ニュース 日本初の「双子用自転車」 3児のママが発案、商品化 史上最年少で「数学検定」1級合格 兵庫の小4、理数系大卒業レベル ヨット世界一周、日本最年少に挑戦 5万キロの航海出発、西宮の木村さん 堀江さんもエール

 幼い頃から絵を描くことが好きで、中学時代は美術部に所属。六甲アイランド高校の芸術系美術・デザインコースから富山大芸術文化学部に進み、主に油絵を手がけた。臨時採用も含め2016年度から6年間、神戸市内の中学校に勤務した。
 昔から運動は苦手。でも中学時代、数キロ先の商業施設に友人と遊びに行くには父のお下がりのマウンテンバイクで坂道を上るしかなかった。道中には知らない景色が広がり、着いた時には達成感があった。気付けば遠くへ行くためにペダルをこぐようになっていた。
 高校時代は日の出とともに出発し、関西各地に出向いた。卒業する頃には寝袋とアルミマット、全財産をリュックに詰め込み、野宿をしながら四国を一周。大学ではアルバイトをして長距離ツーリング用自転車「ランドナー」を購入し、富山から自宅のある神戸まで自転車で帰省した。
■卒業式の直前
 旅先では、テントなどで水彩画を描いた。キャンプ場で見上げた月や日差しを浴びる釣り人。見たものを思い出しながら筆を執る。北海道でもらったエゾシカの骨をモチーフに、紳士服姿のエゾシカを油絵で描いたこともある。
 大学3年で日本一周を達成した。公共交通機関を使うと、目的地を目指す「点の旅」になるが、自転車では「その土地の文化や人との出会いを楽しめる『線の旅』ができた」。いつかは世界一周したい。新たな目標ができた。
 22歳で美術教員になり、クラス担任や美術部の顧問を務めた。部活動や勉強など苦手なことと必死に向き合う生徒。友達と仲良くなろうと試行錯誤する生徒。自分より若い人たちが頑張る姿に逆に励まされた。やりがいを感じたが、自分の挑戦を見せることで何かを感じてもらいたいとの思いが強くなり、教え子が卒業式を迎える直前、退職して旅に出ると告げた。
■成人する頃に
 旅の相棒は、「RISE(ライズ)」と名付けた特注のランドナー。旅先での修理を想定した装備、テントや着替えなど43キロの荷物を取り付ける。来年2月、オーストラリアで語学を身に付け、夏に米アラスカ州から南米大陸最南端のマゼラン海峡へ。その後は欧州に向かい、アフリカでは南アフリカの喜望峰を巡る。中東や南アジアを通って中国・上海をゴール地点に定めており、3~5年で帰国する予定だ。
 「夢は人生の道しるべ。早い遅いはない」と前渕さん。「教え子が成人する頃に再会できたら、見て感じてきたことを伝えたい」
 現在、三田市小野の古民家茶屋「花乃舎(はなのや)」(月-水曜定休)で自身の作品約50点を展示中。27日まで。

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