「純兵庫産」MGC狙う異色ランナー 遅咲きの29歳「一発屋にはならない」 大阪・びわ湖毎日統合マラソン27日号砲

2022/02/20 16:45

陸上の関西実業団選手権男子1万メートルで力走する住友電工の村本一樹=2021年5月14日、大阪市、ヤンマースタジアム長居

 27日号砲の大阪マラソン・びわ湖毎日マラソン統合大会に招待選手として出場する住友電工の村本一樹(星陵高-兵庫県立大出)が上昇気流に乗っている。昨年は18年ぶりに兵庫記録(2時間7分36秒)を樹立。遅咲きの29歳は「2月の戦いに1年間懸けてきた。去年よりもベースアップできている」。地元の公立高、公立大、実業団で鍛錬してきた「純兵庫産」のランナーが2024年パリ五輪代表選考会「グランドチャンピオンシップ(MGC)」の出場権を狙う。 関連ニュース 大阪・びわ湖マラソン 女子は堀江V、男子・村本はMGC出場権獲得ならず 今年から衣替え「びわ湖毎日マラソン」 陸上に精通、ベテランデスクが振り返る76年分兵庫勢活躍の歴史 正平調

(尾藤央一)
 フルマラソン挑戦8度目。昨年2月に滋賀県で最後の開催となった「びわ湖毎日マラソン」が初めて納得できたレースだったという。2時間4分56秒の日本記録も生まれるなど天候などの好条件も後押しし、11位。自己記録を10分近く更新し「ようやくトップレベルのタイムが出た」と安堵(あんど)すると同時に「次は優勝争いに絡む」と高みを目指す契機にもなった。
 24歳で初めて挑んだ17年の北海道マラソンは2時間19分53秒だった。ここから約3年半、なかなか壁を越えられなかった。後半のスタミナ切れを克服できず「いつも25~30キロで失速。ふらふらにならずに走ったことがなかった」。
 2年前、練習方法をがらりと変えた。東京から練習拠点が伊丹へ変わり、藤山哲隆コーチから助言を受けたことがきっかけだ。「自分は訓練しないとマラソンに向かないタイプ」と自覚し、運動生理学の観点から体づくりに取り組んだ。
 一般的にマラソン時には、糖質と脂質をエネルギーとする。「糖分をいくら蓄えても30キロでなくなってしまう。脂肪をエネルギーに変える体質になるように努力をした」と村本。普段から甘い物が好物だが、練習では糖分を大幅に制限。「マラソンの疑似体験」をテーマに、特に大会の約3カ月前から行う40キロ走の練習では、直前の食事を茶わん半分、ウインナー1本にとどめるなど必要最低限に。練習中の水分もお茶と水に限り「考える能力がなくなる状態にする。けがをしない程度に生理学的に追い込む」。脂質代謝能力が向上した結果、後半のスタミナ維持につながっている。
 都大路や箱根駅伝とは無縁でエリート街道を歩んできたわけではない。根底には「泥くさくやってきた」と自負がある。神戸市立岩岡中時代はバスケットボール部。星陵高では体育の授業で長距離走が速かったこともあり、1年冬に陸上部へ転向した。高校時代は兵庫県高校総体5000メートル18位が最高成績。「陸上を続けるかも分からなかった。受験勉強の息抜きに走るぐらいだった」。卒業後は神戸市中央区の予備校「コロンビア学院」で1年の浪人生活も経験した。
 兵庫県立大へ進学し、再び走る喜びを得ると、関西学生対校選手権2部の5000メートル、1万メートルで2年連続2冠、日本学生ハーフマラソン4位などの実績を残した。「自分は関西のレベルが合っていた。一気に飛び越えることなくステップアップできた。半歩先の目標が見えたことがよかった」と振り返る。
 地方大学ならではの苦労もあった。理学部のキャンパスは最寄りのJR相生駅から約10キロ離れた山間部に位置する。部室もグラウンドもなく、大学2、3年生の2年間は授業で夜まで実験することも増え、多忙を極めた。「時間がない中で練習量を確保しようとした」。普段の練習は神戸市西区の自宅に帰ってから。片道約2時間かかり、深夜の公園を走ることもしばしばだった。冬場は最寄りのJR大久保駅から15キロ離れたJR加古川駅で降り、走ってアルバイト先へ向かうこともあった。「学生時代にハングリー精神は養われた。だからこそ、環境が整った今をすごく頑張れている」
 「実業団で走るなら、引退するまでに一度は日の丸をつけるようになりたい」。16年の入社時にこんな誓いを立てた。今夏の世界選手権(米オレゴン州ユージン)の代表選考会を懸けたレースにもなる。今年に入って2度走ったハーフマラソンも設定タイムをクリアし、奄美大島での最終調整も順調という。「去年のびわ湖がまぐれじゃないことを証明したい。一発屋にはならない」と自らに言い聞かせるように強調した。

神戸新聞NEXTへ
神戸新聞NEXTへ