「甲子園、特別な場所ではなかった」 球史に残る「引き分け再試合」で4強に導いた主将兼エースの思い
2022/03/13 19:00
甲子園で力投する東洋大姫路高時代のグエン・トラン・フォク・アンさん=2003年3月27日
第94回選抜高校野球大会は18日、兵庫県西宮市の甲子園球場で開幕する。19年前の春、主将兼エースとしてチームを同校最高成績の4強に貢献したグエン・トラン・フォク・アンさん(36)=川崎市=にとって、甲子園は「特別な場所ではなかった」という。ベトナム難民2世という生い立ちも手伝って注目を集めた高校時代。球史に残る引き分け再試合をどんな思いで戦い、今振り返って何を思うのか。
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創部40年の節目の春だった。岡山城東とぶつかった初戦の2回戦で2失点完投し、鳴門工(徳島)との3回戦は圧巻の15奪三振で1安打完封。この試合で145球を投げた翌日、準々決勝で相まみえたのが、花咲徳栄(埼玉)だった。
延長15回、191球の熱投。勝ち越された直後の15回裏に追いついた東洋大姫路は、春の聖地では41年ぶりとなる引き分け再試合に持ち込んだ。3時間13分を戦い抜いて宿舎に戻ると、満身創痍(そうい)。アンさんは「藤田(明彦)監督との面談の順番を待つ間に、廊下で寝てしまうほどでした」と笑う。
翌日の試合は、史上初となる再試合延長戦の末に4強入り。この大会でチームは優勝校と同じ5試合を戦い、アンさんは計648球を投げた。当時の取材に「我慢の大切さ、声を掛け合うことの大切さ。学んだことがたくさんあった」と語り、「今もそう思う」と話す。ただ、聖地が特別ではなかったのは「他の大会と同じように、単純に目の前の試合に勝ちたい一心だった」から。「その結果が甲子園につながったし、あの試合があった」と振り返る。
高校野球ベストゲームも、甲子園での試合ではないという。一番印象に残るのは「智弁和歌山ですね」と即答。和歌山屈指の強豪とは、3年間で3度対戦した。最初は高校2年の練習試合で、2度目は選抜出場を決めたその秋の近畿大会準決勝。どちらも「ボッコボコにやられた」。聖地での激闘を経て、最後は3年時に東洋大姫路のグラウンドで行った練習試合で顔を合わせ、2桁三振を奪って完封。「三度目の正直でした。根っからの負けず嫌いなんですよ、めちゃくちゃ」と懐かしむ。
旋風を巻き起こした春から19年。「僕らの時は私学が中心。今は公立も強い」というアンさんの言葉通り、兵庫の高校野球の勢力図は変化し、群雄割拠の時代にある。かつて夏の甲子園大会を制した名門・東洋大姫路の選抜出場が14年ぶりというのが一つの象徴だ。恩師の藤田明彦監督(65)や三牧一雅部長(65)が退任するこのタイミングで甲子園に返り咲く後輩たちを「よくやった」とねぎらうアンさん。この春、聖地にはどんな物語が待っているだろうか。(長江優咲)