人とコウノトリの共生訴え 事故死した「翼」の一生、児童らが紙芝居に 朝来・東河小

2022/01/12 05:30

交通事故で死んだコウノトリ「翼」を主人公にした紙芝居を披露する4年生の児童たち=東河小

 人とコウノトリが共に暮らせるまちにしたい-。兵庫県朝来市和田山町、東河小学校の4年生が、昨年4月に同市内で交通事故に遭って死んだコウノトリの雄「翼」を主人公にした紙芝居「つばさ物語」を完成させた。巣立ちからペアの出合い、営巣、子育てを始めるまで、主人公の一生を丁寧に追っている。児童らは地域住民を招いた発表会を開き、約40分に及ぶ大作を心を込めて披露。人とコウノトリの共生を願う思いを伝えた。(竜門和諒) 関連ニュース 年の瀬に「幸」飛来 小野にコウノトリの群れ「これほどの群れは初めて」 コウノトリ40羽が飛来 加古川・野田池、餌場に定着か 欠けた月と2羽のコウノトリ、絵になる共演


 同小の校区には、地元の東河地区協議会が2019年に寄付を募って建設した高さ約12メートルの人工巣塔がある。完成後すぐにペアが営巣を始め、翌20年4月にひながふ化した。当時3年生だった児童たちは、環境学習の一環として、ペアの雄を「翼」、雌を「夢」、育った幼鳥の雄を「清流」、雌を「愛結(めい)」と命名。4羽が暮らす環境を守ろうとごみ拾いなどを続け、2羽のひなは順調に巣立った。
 しかし21年4月、新たなひなの子育てをしているときに、翼が交通事故で死んでしまう。田路百楽さん(10)は「悲しすぎて心が折れそうになった」。悲しみに暮れた学年の児童全員が「翼の命から学んだことを伝えたい」との思いを共有し、翼の一生を紙芝居にしようと決めた。
 児童たちが紙芝居に込めたメッセージは、「コウノトリと共に幸せに暮らすこと」。1学期には、地域住民らからコウノトリの習性や翼がどんなふうに育ってきたかなどを聞き取り。分担を決めて2人ずつに分かれ、担任の陣在沙耶香教諭(33)のアドバイスも踏まえて脚本を完成させた。2学期になると、授業時間だけでなく、一部の児童は自主的に放課後も残って作画を進めた。
 半年以上かけ、表紙を含めて32枚の大作が完成。21年12月中旬、児童が全学年の教室を回って読み聞かせをした。さらに同月22日には、地域住民や同県立コウノトリの郷公園(豊岡市)の職員らを招いて発表会「つばさの会」を開いた。
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 物語は豊岡市内でのふ化のシーンから始まる。2カ月後に巣立ち、餌場を求めて静岡県まで飛んでいったときの様子や、兵庫に戻って「夢」と出合い、同小にほど近い巣塔で「清流」と「愛結」を育てる場面などが続く。地域住民や同公園職員、飛来先の観察者らから話を聞いて作り上げた。
 中盤を過ぎた24枚目。21年4月、新たに生まれたひなに与える餌を探すシーンで、幸せな物語は暗転する。「あれっ、体が動かない」「助けて…子どもたちが待ってる」。事故に遭った翼はコウノトリの郷公園に搬送された。母親だけとなり、外敵に襲われる可能性が高まったひな3羽も一時保護され、別のコウノトリのペアに託された。物語は、翼が巣塔に戻って夢に感謝を伝え、天国に羽ばたくシーンで終わる。
 紙芝居に続いて児童たちは、ひな3羽の名前「月羽(つきは)」「万里(ばんり)」「颯空斗(さくと)」について、頭文字を並べると「つばさ」になるように名付けたことを紹介。さらに「共生ができる社会づくり、環境づくりについて、一人でも多くの人が真剣に考え、その輪が広がることを願っている」との思いを客席に伝えた。
 田路さんは「先生やたくさんの人に支えられたことでやりきれた」と満足そうに話した。将来は同公園の飼育員になりたいという藤次玲香さん(10)は「翼が亡くなったけど、これで終わったら駄目だと思った。知識の輪を広げていきたい」と話した。陣在教諭は「思いを持って行動することや、人とのつながりの大切さなど、人生において大事なことを経験できたと思う」と振り返った。

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