巣塔観察に熱中…大阪から移住決意、今やガイドが趣味 コウノトリに魅せらた愛好家たち
2022/05/27 12:00
移住して3年目の木許浩二さん=豊岡市城崎町今津
コウノトリ愛好家の探訪記第2弾は、野生復帰が進められる豊岡に大阪から転居した男性と、休日の巣塔巡りで1日30キロを自転車で走破する高校生を紹介する。(丸山桃奈)
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■徒歩3分の物件に転居「好きなことできるうちに」 木許浩二さん(52)=豊岡市
「コウノトリ?」。5年ほど前、大阪市から豊岡市にドライブで来た木許(きもと)浩二さん(52)=同市=は、道路地図で「コウノトリの郷公園」の文字を目にした。ぴんとこず、実物を見てみようと現地まで足を延ばした。帰宅後、郷公園に近い祥雲寺巣塔の様子を確認できるライブ映像の存在を知り、気がつけば仕事の合間を縫っては、巣塔から顔を出すひなの観察をしていた。巣立ちを見届けたことを契機に毎月1回、日帰りで豊岡に通い始めた。熱はさらに高まり、成長ぶりを追うため、頻度は月2回に増えた。
はまったきっかけはもう一つある。個体に付けられる足環だ。一覧を見て「誰と誰の子で、その子が誰とペアになって…。毎年ひなが生まれていく。たどっていってたら、そのままとりつかれました」。
大阪-豊岡の往復生活が2年ほど続くと交通費もかさみ、凝り性の木許さんは決心した。「コウノトリに貢ぐなら、できるうちに好きなことをやろう」。ちょうど同じ頃に勤務先の経営危機が伝えられた。「今しかない」と早期退職し、豊岡に移り住んだ。転居先の条件はただ一つ。コウノトリを間近で見られるところ。巣塔まで徒歩3分の物件を即決した。
移住後、休みの日には朝から巣塔を巡り、京都府内まで足を運ぶことも。今は繁殖・子育てのシーズンに当たり、親鳥のペアが交代で餌を探しながら、巣塔で子の世話をする状況を観察する。「大阪から通っていた時は、可能な限り数多くの巣塔を回っていたが、生まれてくるひなも把握したいので、巡るのは豊岡市内の3巣塔が限界」という。
豊岡に越して3年。「移住するまでコウノトリにはまるとは思わなかった。魅力や好きになった理由を聞かれることがよくあるけれど、『見ていて飽きないから』とよく言う。移住に後悔はないですね」
■カメラ手に自転車で1日30キロ「人との出会い魅力」 安田高祐さん(15)=豊岡市
高校1年生の安田高祐(こうゆう)さん(15)=豊岡市日高町堀=は、物心がついた頃から昆虫を追って採集する少年だった。自然とコウノトリにも興味を持つように。生き物に関する会話の相手は小学生の頃から、県立コウノトリの郷公園の職員や愛好家だった。「詳しい人とたくさん話をし、コウノトリを観察しなければ出会えなかった人に、たくさん会えた」と声を弾ませる。
巣塔の観察にはノートが必須アイテム。「(午後)3時34分やっと採食し始めた。採食というよりはむしろ水を飲んでいるようだ。くちばしで水をすくって飲んでいる。それからまた羽繕い。3時54分奥のビオトープへ行った」-。
行動の記録は、分刻みで細かく描写した。繁殖や飛来状況を郷公園などで聞いた知識や講演会の内容もびっしり。小学校でコウノトリを学ぶ授業があった時には、誰よりも詳しいことから、先生の代わりに授業をしたこともあった。
高校生になってからは休みの日に、一眼レフカメラと記録用のノート5冊を携え、自転車で豊岡市内8カ所を回る。その距離は30キロをくだらない。巡るうちに一羽一羽の違いを識別できるようになった。覚えた約50羽は、振り分けられた個体番号や足環の色使いで、どの巣塔で営巣しているかや、ペアの組み合わせも分かるようになった。
趣味はコウノトリのガイドだ。「もしよかったら、解説してもいいですか」。郷公園の公開ゲージを訪れた観光客に関心を持ってもらおうと始めた。「全く知らない人はカラスをコウノトリと間違えるぐらい。素朴な質問をされると、それはそれで、新しい発見がある」という。
安田さんは最近考えるようになった。「足環が付いていなかったら、ここまで興味が湧かなかったかも」と。個体番号を通じて特定のコウノトリを追跡し、目撃情報を共有することができる。「成長の過程を(愛好家と)分かち合えるのが足環(の番号)。コウノトリも大好きだけど、何より(コウノトリに情熱を燃やす)人が魅力です」
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人工巣塔を私設した兄弟、母と娘で観察 コウノトリに魅せられた愛好家たち