「船体を放棄する」荒れる太平洋でマグロ漁船炎上、漂流する8人…全長300メートル貨物船が極限の救助

2022/03/09 05:30

煙を上げるマグロ漁船(第11管区海上保安本部提供)

 日本郵船の貨物船「MOONLIGHT DOLPHIN(ムーンライト・ドルフィン)」の乗組員たちが今年1月、太平洋上で火災が起きたマグロ漁船の乗組員を救助したとして、第11管区海上保安本部(那覇市)から表彰を受けた。神戸製鋼所加古川製鉄所(兵庫県加古川市金沢町)に鉄鉱石を運ぶ貨物船を巧みに操り、荒れる海の中、救命用いかだで漂う8人全員を無事に引き揚げたという。 関連ニュース 【写真】いかだに乗り救助を待つマグロ漁船の乗組員 【写真】海を見下ろすムーンライト・ドルフィンの乗組員と毛布にくるまる要救助者 停泊中の船にしがみつく女性 仕事用のロープ使い救助 男性2人「ためらわず助けられた」 神戸

 7日に同製鉄所であった表彰式では、「ムーンライト-」の乗組員21人を代表し、フィリピン人のノルベルト・アンソン・コルモ・ジュニア船長(45)が、同本部の一條正浩本部長(59)から感謝を伝えられた。
 同本部によると、1月21日午前7時すぎ、那覇市の南東約740キロの太平洋上で、航行中だったマグロ漁船から関係者を通じて「船が燃えており、船体を放棄する」と同本部に通報があった。船には、日本人の60代男性船長と20~30代のインドネシア人の男性計8人が乗っていた。
 加古川からオーストラリアに向かう途中だった「ムーンライト-」は全乗組員がフィリピン人で、現場から35キロほど離れた海域を航行していた。火災発生から約2時間後、同本部からの救助要請を受信。コルモ船長は「生存者がいると知り、必ず安全に助けると誓った」と振り返る。
 メッセージ受信から約2時間後、同船は現場周辺に到着。空気を入れた黄色い円形のいかだに8人が乗り、うち1人が手を振る様子が見えた。風が強く波が高かったため、小回りが利く救助艇は出せなかった。このため、全長約300メートルもある「ムーンライト-」の速度を限界まで落とし、かじを取りながら慎重にいかだ近くへ進めた。荷下ろしなどに使うネットやはしごを使い、次々に助け出したという。3日後、全員無事に那覇港に戻れた。
 一條本部長は「小さないかだにあれだけ大きな船を接近させるのは、高度な技術が必要だ」とたたえる。救助された乗組員の「(船上で食べた)ご飯がおいしかった」「服を貸してくれてありがとう」という感謝の言葉を一條本部長が伝えると、コルモ船長は「元気に8人全員を戻せたことは、とても幸せなことだ」と笑顔で話していた。(千葉翔大)

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