過酷なシベリア抑留体験、現在に重ね新曲 高砂の男性がCD発売、侵攻に落胆「何も変わっていない」

2022/08/14 05:30

アコーディオンで戦争体験を歌い継ぐ田中唯介さん。ロシア製の防寒帽は、友好の願いを込めてかぶっているという=高砂市

 太平洋戦争終結後、シベリアに4年間抑留された田中唯介(ゆいすけ)さん(96)=兵庫県高砂市=が、反戦の思いを込めて作った新曲を収録したCD「核なき世界を結び行け」を出した。ロシアによるウクライナ侵攻が続く中、自身の過酷な体験と現在を重ね、戦争のむなしさと平和への願いを歌詞に込めた。15日は終戦の日。「戦争には多大な犠牲が伴う。悲惨さを知れば、戦争は止まる」と語る。(児玉芙友) 関連ニュース 「敵機襲来。アカン西宮や。」夜空に飛行機の爆音と焼夷弾… あの晩、九死に一生を得た少年の話 本物!?倉庫の屋根に横たわる「戦闘機の胴体」 吉岡里帆さん「あったはずの未来、失われた命。心がつぶされるような思い」 映画「島守の塔」


 田中さんは阿閇(あえ)村(現在の同県播磨町)出身。1945年2月に旧満州国に入り、同8月に19歳で終戦を迎えた。旧ソ連軍に連行され、カラガンダ(カザフスタン中部)へ。鉄道建設やれんが用粘土の採掘などを強いられた。食事は黒パンとわずかなスープだけ。マイナス40度近い極寒の中、凍傷で左右の人さし指の指先を切断することになった。
 飢えと寒さの中、同じ収容所にいたドイツ人捕虜にアコーディオン演奏を習い、音楽に心が救われたという。49年に帰国後はアコーディオンを奏で、シベリア抑留の体験を弾き語りで伝える活動を続けている。
 「あれから70年余り。結局何も変わっていない」と、ロシアによるウクライナ侵攻に落胆する。それでも田中さんは核使用への不安の高まりを受け、核兵器を許してはいけないという思いを改めて強くし、「核なき世界を結び行け」を作詞・作曲したという。
 CDには、有名歌手の指導歴もある望月吾郎さんの歌を収録。歌詞では「ヒロシマ長崎忘れまい」と誓い、「核なき世界を結び行け 戦を捨てた諸人代(もろびとよ)」と強く呼びかける。田中さんのアコーディオンのやさしいメロディーと澄んだ歌声で、戦争による犠牲の重みも伝える。
 田中さんは「音楽で戦争を止めることはできないが、音楽で心を豊かにすることはできる。年月がたって戦争体験者も減っている。命続く限り歌い続けることが、自分の使命だと思う」と、100歳近くにしてなお衰えぬ決意を語る。
 CDは1300円。故郷・播磨町への思いを歌にした「輝け・播磨町賛歌」も収録している。送料別で郵送にも対応する。

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