前回までのあらすじ
安芸高田市の郷野小学校で「タカモト」「モトハル」「タカカゲ」と名乗る三匹のネコに出会ったマル。モトナリに会いに来たと伝えると、「会わせるかどうかは俺たちに勝ってからだ」。三匹に連れられてマルは校舎に足を踏み入れた。
◆ ◆
木のいい香りが漂っていた。
かつては人間も使っていたという郷野小の校舎には、たくさんのネコがいた。
それぞれの背中に矢が一本、二本……。タカモトたちのように三本の矢を背負うネコはあまりいない。
校舎の二階に上がったところで、突然ぞうきんを渡された。当然、矢の腕前を競うものと思っていたので、オレは「えっ?」と声を漏らした。
タカモトがふんっと鼻を鳴らす。
「俺たちは毎日これで修業している。この廊下が俺たちの道場だ」
ざっと五十メートルはありそうな長い廊下だ。
息つく間もなく、三匹がぞうきん掛けの姿勢をとった。
あわててオレもスタート位置につく。
どこからか小さなネコが現れた。
「みなさん、準備はいいですか? それでは、よーい、ドン!」
いっせいにスタートを切った三匹を、オレも追いかけた。
思っていたよりもずっと大変だ。すぐに汗が噴きこぼれ、足がガクガクし始めた。
ほんの十メートル進んだだけで、オレはへこたれそうになった。それでも……。
なんとか足を前に動かし続ける。先を行く三匹を懸命に追いかける。
オレはかなしきデブ猫ちゃん。逆境にはめっぽう強いんです。
「そこんとこよろしく!」と大声で叫びながら、まず目の前のタカカゲを抜き去り、次にモトハルを、そしてゴールの直前でタカモトをかわしきって、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
ハァハァハァ……。
息を切らしながら振り返ると、三匹は信じられないといった様子でオレを見ている。
さぁ、約束通りモトナリに会わせてくれー。
そう言おうとしたときだった。黒く、大きく、重たい影が、目の前に現れた。
ゆっくりと顔を上げると、そこになぜか化粧をしたモトナリが立っていた。
「えっ?」と口にしたオレに顔を近づけ、モトナリが静かに口を開く。
「話はあとだ。ついてこい」
そう言うモトナリに連れていかれたのは、かつて図書室だったという部屋だった。