吾輩も“ネコ”である。
名前は、マル。
額にクールな“八”の字の入った、通称「ハチワレ」。一年前、広島県内をぐるりと回った勇敢なオスネコだ。
ふーん、ふふふーふふんー♪
エアコンのよくきいた館内に、『さすらい』の鼻歌が小さく響く。
ここ最近、常に一緒にいる相棒のポギーが、あきれたように言ってくる。
「なんでノンキに絵なんて見てるんだよ!」
目の前に、たくさんの絵が並んでいる。最近のオレの趣味だ。広島には素敵な美術館がたくさんある。
今日やって来たのは〈ひろしま美術館〉だ。モネにピカソ、それにゴッホなんかがオレのお気に入りだ。
「いやぁ、素晴らしい絵ばかりだよね。ポギーは静けさの匂いってあると思わない? オレ、アートって好きだな」
ポギーは怒ったように毛を立てた。
「君にアートが理解できるとは思わないぞ! そんなことよりも、マル。本当にそろそろ出発しようぜ」
ひどい言われようだが、ポギーの言い分も理解できた。
オレたちが出会ったのは七ヶ月前、冬のマツダスタジアムだった。
あの日、ライブを終えたオレたちのもとに、見知らぬネコがバックスクリーンから猛然と走ってきた。
そのネコこそがポギーだった。
ポギーは仲間の一人、モトナリに用があった。
「先生! 力を貸してください! ある黒猫が困っています。帰る場所がわからないと言うんです!」
仲間たちがざわめいた。
それを制するようにモトナリが問いかけた。
「帰る場所とは?」
「記憶をなくしたと言ってるんです」
モトナリの眉が歪んだ。助けてやりたいのは山々(やまやま)だが、いまは予定が立て込んでいるのだという。
ポギーはがっくりとうなだれた。
「そうですか……。あのメス猫、落ち込むだろうな」
「だったら、オレが力になろうか?」と、オレはつい安うけ合いしてしまった。ライブで気が大きくなっていたせいだろう。
それでも困っている者がいるなら、黙って手を貸したい。ましてや、それがメス猫ならば!
オレは「かなしきデブ猫ちゃん」だ。
そこんとこ、どうぞよろしく--。