多くの人が犠牲となった阪神・淡路大震災から、もうすぐ28年がたちます。
広い世界を知るために旅を続ける「かなしきデブ猫ちゃん」の主人公マルは、いま神戸にいます。最初にマルが愛媛から兵庫にたどり着いたとき、〈神戸栄光教会〉の仲間たちが歌っていた曲をおぼえていますか?
今回は、その歌に込められた神戸のネコたちの思いを伝える「震災編」をお届けします。
◆ ◆ 吾輩も“ネコ”である。
名前は、マル。
兵庫五国を旅した史上初の三歳のオス猫。額にクールな「八」の字の入った、通称“ハチワレ”だ。
港の方から風が吹いている。何百、何千というロウソクの火が揺れている。
オレはのっそり身体を起こした。
「え、ここはどこ?」という声に応じたのは、神戸栄光教会で暮らすシンディだ。
「起きた? ここは神戸市中央区の東遊園地という公園。昨日、マルはここで寝たでしょう?」
そう言われて思い出す。昨夜、教会の屋根裏で、仲間のネコたちと歌っていた。
そして、いつものように『満月の夕』を歌い上げて、会が終わろうとしたときだった。
「ねぇ、どうしてみんなはこの曲をこんなに大切に歌うの?」
その理由を、オレはまだ教えてもらっていない。
リーダーのマイケルが微笑んだ。
「そういえば、まだマルにこの曲について話してなかったな」
キース、ルイ、フジコの三匹も楽しそうに笑う。
「たしかに。でも、今日は一月十六日。タイミングはバッチリだ」
キースの言葉に、マイケルは小さくうなずいた。
「マル。明日は早起きできるか?」
「いいよ。何時?」
「遅くても五時には東遊園地に来てほしい」
「ご、五時ぃ!?」と大声で叫んだオレは、そんなに早く起きられる自信がなかったので、そのままシンディと東遊園地に向かったのだ。
早朝だというのに、公園には続々と人が押しかけてくる。
「なんでこんなに人がいるの?」
シンディは近くの時計に目を向けた。
「私たちが『満月の夕』を大切にするのと同じ理由よ。マルの知りたい答えと一緒」とつぶやいて、シンディはゆっくりと語り出した。
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