【これまでのあらすじ】
多くの人が犠牲となった阪神・淡路大震災から28年がたちました。
「かなしきデブ猫ちゃん」の主人公マルは、〈神戸栄光教会〉の仲間シンディといっしょに、1月17日の朝を神戸の東遊園地で迎えました。どうして早朝から大勢の人たちが集まってくるのか? シンディはそのわけを静かに語り始めます…。
今回は、先週に続き「震災編」の後編をお届けします。
◆ ◆「いまから二十八年前、この街で大きな地震があった。人にも、ネコにもたくさんの被害が出たわ。ここでは毎年そのセレモニーが行われている。『満月の夕』も同じ。あれは復興の願いが込められた歌なの」
シンディの説明を聞いて、オレはやっと仲間たちのさみしそうな表情の意味を知った。だけど、納得できないこともある。
「でも、それってオレたちの生まれるずっと前の話でしょう?」
「それでも、私は忘れたくない」
「どうして? つらい記憶なら忘れた方がいいじゃないか」
シンディはうなずこうとしなかった。
「ねぇ、想像して。マルにも忘れたくない仲間はいるわよね?」
「それはいるよ」
「マルの愛媛の仲間たち、私は会ったことがないけれど、みんながいることは知っている。あなたがみんなを覚えていて、私に教えてくれたから。違う?」
「それは--」
「同じことじゃない? 私はやっぱり忘れたくない。この街に生きていたたくさんの仲間のことを歌い継いでいきたい。一九九五年の、今日。一月十七日。空には大きな満月があったって。その日、この街で地震があった。時間はそう--」
近くの時計が五時四十六分を示そうとしたとき、シンディはそっと目を閉じた。それをマネして、オレも頭を下げて、目をつぶる。
すると不思議なことに、まぶたの裏に何匹ものネコが現れた。彼らが誰なのか、オレは知らない。知らないけれど、どこかなつかしさを感じさせるたくさんのネコたちが、オレのよく知る神戸の街を楽しそうに練り歩いている。
目を開けると、頭上に有明の月が浮かんでいた。
どこからともなく仲間たちの歌声が聞こえてくる。「行こう!」と、シンディと手を取り合った。
ネコたちの歌がきっと聞こえているのだろう。
そばにいた人間の女の子が、お母さんの手を握りながら「♪ニャサホーヤ」と口ずさんでいた。
【連載記事一覧へ】