デブ猫

震災編 祈りの朝【下】

2023/01/21 12:00

 【これまでのあらすじ】


 おおくのひと犠牲ぎせいとなった阪神はんしん淡路大震災あわじだいしんさいから28ねんがたちました。


 「かなしきデブねこちゃん」の主人公しゅじんこうマルは、〈神戸栄光教会こうべえいこうきょうかい〉の仲間なかまシンディといっしょに、1がつ17にちあさ神戸こうべ東遊園地ひがしゆうえんちむかえました。どうして早朝そうちょうから大勢おおぜいひとたちがあつまってくるのか? シンディはそのわけをしずかにかたはじめます…。


 今回こんかいは、先週せんしゅうつづき「震災編しんさいへん」の後編こうへんをおとどけします。


◆    ◆


「いまから二十八年前にじゅうはちねんまえ、このまちおおきな地震じしんがあった。ひとにも、ネコにもたくさんの被害ひがいたわ。ここでは毎年まいとしそのセレモニーがおこなわれている。『満月まんげつゆうべ』もおなじ。あれは復興ふっこうねがいがめられたうたなの」


 シンディの説明せつめいいて、オレはやっと仲間なかまたちのさみしそうな表情ひょうじょう意味いみった。だけど、納得なっとくできないこともある。


「でも、それってオレたちのまれるずっとまえはなしでしょう?」


「それでも、わたしわすれたくない」


「どうして? つらい記憶きおくならわすれたほうがいいじゃないか」


 シンディはうなずこうとしなかった。


「ねぇ、想像そうぞうして。マルにもわすれたくない仲間なかまはいるわよね?」


「それはいるよ」


「マルの愛媛えひめ仲間なかまたち、わたしったことがないけれど、みんながいることはっている。あなたがみんなをおぼえていて、わたしおしえてくれたから。ちがう?」


「それは--」




おなじことじゃない? わたしはやっぱりわすれたくない。このまちきていたたくさんの仲間なかまのことをうたいでいきたい。一九九五ねんの、今日きょう一月十七日いちがつじゅうななにちそらにはおおきな満月まんげつがあったって。その、このまち地震じしんがあった。時間じかんはそう--」


 ちかくの時計とけい五時ごじ四十六分よんじゅうろっぷんしめそうとしたとき、シンディはそっとじた。それをマネして、オレもあたまげて、をつぶる。


 すると不思議ふしぎなことに、まぶたのうら何匹なんびきものネコがあらわれた。かれらがだれなのか、オレはらない。らないけれど、どこかなつかしさをかんじさせるたくさんのネコたちが、オレのよく神戸こうべまちたのしそうにあるいている。


 けると、頭上ずじょう有明ありあけつきかんでいた。


 どこからともなく仲間なかまたちの歌声うたごえこえてくる。「こう!」と、シンディとった。


 ネコたちのうたがきっとこえているのだろう。


 そばにいた人間にんげんおんなが、おかあさんのにぎりながら「♪ニャサホーヤ」とくちずさんでいた。


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