【前回までのあらすじ】
マルは、赤穂ニャン士の頭領、大石クラニャ助と姫路城の姫、お鶴の結婚式に参列するため、ニャン士たちと高砂市へ。道中、万葉の岬やたつの市の道の駅「みつ」に寄り、よく食べた。そして太子町の斑鳩寺でコウズケニャ介に旅の理由を明かす。すると突然シカが話に割り込んできた。「それってつまり光のトンネルのことだね。一月十七日にのみ現れる」
◆ ◆ シカは「タイシくんと申します」と名乗った。
自分を「くん」づけするのは変だと思ったが、いま気にするべきはそれじゃない。
「そのトンネルは何なのだ?」「なぜ一月十七日か?」「どんなトンネルなのか?」「本当に大切な人と会えるのか?」と、光のトンネルを知るというタイシくんに、十人の仲間たちがいっせいに質問を投げかける。
タイシくんは、すべての質問に次々と答えていった。
「普通のトンネルとは違うと聞く」
「一月十七日は我々にとって大切な日」
「震災にまつわるトンネルだ」
「大切な人に会えるのはその日だけ」
オレは何よりタイシくんが十人の話をすべて聞きわけていることにビックリした。
あんぐりと口を開いたオレを見て、タイシくんはくすりと笑う。
オレはあわてて振り返り、ニャン士たちにお願いした。
「ちょっと二人きりになってもいいかな?」
みんなは「ならば我々はマルコム殿のことを探ってみよう」と、いっせいにその場を離れていった。
オレとタイシくんはひときわ目立つ三重塔まで歩いていき、柵の前で腰を下ろした。
「オレはマル。三歳のハチワレ猫だよ」
「私はタイシくん。三歳のニホンジカだ」
「へぇ、同い年なんだね。なのに、タイシくんはすごいね」
「すごいとは?」
「なんか落ち着いているし、みんなの言葉を聞きわけちゃうし」
「そんなことよりもマル、本当に光のトンネルを探しているなら、もうあまり時間はないぞ」
「一月十七日。その日がどうして大切か、オレも知ってるよ」
いまからおよそ三十年前、神戸で多くの人間が、そしてネコが亡くなった日だ。
タイシくんはこくりとうなずいた。
「今日は十二月三十一日。あと二週間ほどしかない。ちなみに私もくわしい場所は知らないのだ」
「震災に関係した場所なんだよね? 大きなヒントだよ」
オレは気が急くのを感じた。
それを許すまいとするように、タイシくんは口もとに笑みを浮かべた。
「今夜はここで夜を明かすといい。大晦日だ。一緒に祈りを捧げよう」
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