深ヨミ

(被害編)始まりは「同窓会」

2021/06/06 16:00

 間違いメールをきっかけに、若い異性を装って悪質チャットサイトへの誘導を図る「サクラサイト商法」に、実際にだまされてみる「おとり調査」を実施し、その一部始終を記事にした私(47歳・男性)の元に、一通のメッセージが寄せられた。北陸地方に住む女性(64)で、全く同じ手口に引っ掛かり、チャットサイトで計155万円をつぎ込んだという。記事を読んで初めて、だまされていたと気づいたという女性に、私は取材を申し出た。女性は打ちひしがれていたが、「今後のお役に立てるならお話ししたい」と言った。以下は女性の8カ月にわたる、苦々しい被害体験談である。(森本尚樹)


1 始まりは「同窓会」


 「お久しぶりです。同窓会のことで話があるので連絡ください」


 そのメールが北陸地方に暮らす三津子さん(仮名)のiPadに送られたのは、昨年8月末のことだった。英字と数字を組み合わせて「@icloud.com」で終わるアドレスで、心当たりはない。誰なのかと返信すると、翌朝に返信があった。


 「あれ? もしかしたら同窓生と間違えて送信してしまったかも。男性の方ですよね?」


 この手口で必ず聞いてくる「男性か女性か」だが、三津子さんはそういうことは知らない。相手がしつこく性別を聞くので、三津子さんは女性だと答えた。


 「俺は本田浩二って言います! 携帯が水没して電話帳が消えてしまい知人からメモ書きで同窓生のアドレス受け取ったんですが手動入力の際にミスがあって偶然あなたのアドレスに届いたみたいです。(中略)これも何かのご縁ですし少しお話しませんか?」


 三津子さんは夫と2人暮らし。特段、出会いを求めていたわけでもないが、受け身のままに承諾の返事を送った。さっそく、「本田浩二」から前のめりのメールが来る。


 本田「敬語は無しでいきましょう♪ ところであなたのお名前も教えて頂けますか?」


 三津子「三津子っていいます」


 本田「とりあえずミツコさんって呼んでおくね! そういえばミツコさんは年齢いくつ?俺は28歳だよ」


 独り立ちしている自分の子どもよりも若い本田に、三津子さんは恥ずかしいと感じて年齢を告げることはできなかった。それでも、本田は気にする様子もなく、親しげなメールを送り続けてくる。


 こちらがだまされているとは思いも寄らなかった。


2 その名は「本田浩二」




 間違いメールをきっかけに、「本田浩二」の誘いでメールのやりとりを始めた北陸地方在住の三津子さん(仮名、64歳)。平日の日中は工業部品製造の会社で働く。スマートフォンは持っているが、インターネットはもっぱら自宅にあるiPadを使う。日々、仕事を終えて帰宅すると、本田からメールが届いている。


 本田「おはよう! 俺は広告代理店に勤めてるんだけど、ミツコさんはどんなお仕事してるの?」


 本田「そういえばミツコさんはどこに住んでるの? 俺は東京の品川に住んでるよ!」


 さて、ここで、記者である私(47歳・男性)が今年3月に取り組んだ「おとり調査」を振り返らなければならない。私が最初にやりとりした相手は、私が男だと知るや27歳の「小松桃」を名乗り、やはり広告代理店勤務、東京・品川在住だと告げた。さらに、父は社長、兄は役員、経営者の子どもゆえに友達が少ないのが悩みだと明かしていた。


 三津子さんに送られた本田のメールの文面に、私は驚いた。


 本田「まだ言っていなかったと思うけど、親父の経営する広告代理店で兄貴と俺は働いてるんだよね。それで相談があるんだけど、聞いてくれるかな?」


 本田「相談っていうのは、俺、友達が少ないんだ…。経営者の子だからまわりの人が気を使ってプライベートの付き合いをしてくれないんだ…(^_^;)」


 男女の口調の違いを除き、全く同じ文面なのだ。そして、文面が同一である以上、展開も全く同じだった。想定通り、最初のメールから1週間で事態は急展開する。


 本田「ミツコさん…どうしよう…大変な事がおきて…」


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