ネットやゲームの依存予備軍は診断を受けた患者の10倍はいるという。どんな治療があり、依存傾向にある場合、家族や周りの人はどう接すればいいのか-。神戸大病院(神戸市中央区)で、ネット・ゲームとギャンブル依存の専門外来を担当する精神科専門医、曽良一郎教授に引き続き聞いた。
■依存しやすいタイプ
--依存しやすいのはどんな人?
曽良 現実世界であまり楽しめず、ゲームの世界に親和性が強いという特徴があります。社会や家庭で生きにくいなど、生活の中で満たされないものがある。そういうとき、手軽に手に取れられるゲームやネットを使いがちになってしまう。
子どもたちの場合は、学校生活が面白くないと感じて不登校になる。あるいはゲームをやりすぎて不登校になる。学校を休むことでゲームをする時間が増える。生活が不規則になり、勉強についていけなくなり、また学校に行かなくなるという悪循環に陥っていきます。
■スマホ・ゲーム機を取り上げるのは逆効果
--ゲームをやめさせるには?
曽良 重症・中等度以上の人の場合、スマホやゲーム機自体を取り上げるのは逆効果です。何らかの手段で手に入れようとして、家庭内で緊張が高まります。暴力や家のお金を盗むということもあり得ます。アルコール依存の患者がどんなことをしてでもお酒を手に入れようとするのと同じです。
■まずは規則正しい生活を
--ではどうすれば?
曽良 まずは規則正しい生活を送らせることです。特に青少年の成長過程にとって規則正しい生活リズムは非常に重要です。
その上で、ネットやゲームに代わる楽しいことを増やしていくことです。本人がネットやゲームが一番ではないと実感できるようにするしかありません。
■否認するのが依存の特徴
曽良 依存症には否認というメカニズムがあります。「自分は依存ではない」と強く思うことです。受診に来ても「なんで自分がここに来ないといけないのか。自分よりもっと長時間ゲームをしている友だちや同級生はたくさんいる」と言う。
それでも詳しく話を聞いていくと、自分はこのままではいけないということは分かっている。学校や仕事を休むといった社会生活に深刻な影響が出ているためです。このせめぎ合う2つの感情をきっかけにして、治療につなげていきます。
■ゲーム業界に対する規制必要
--「ガチャ」の不正事件なども後を絶たない。制作側のモラルも問われる
曽良 彼らはもうけるのが仕事です。「いかにユーザーをはまらせるか、中毒にさせるかを考えて作っている」と言っていた業者もいました。
成人がネットやゲームをするのは、お酒やタバコと同じように自己責任ですればいい。ただ、未成年については一定の規制や保護が必要だと考えます。依存リスクがあるのは飲酒もゲームも同じです。
香川県が2020年に制定したネット・ゲーム依存症対策条例に批判があるのは承知しています。それでも評価すべき点があるのは、家庭と学校、行政、医療が連携を取って青少年の健全な育成を考えていきましょうというところです。
今、若い人でゲームやネットをしない人はいません。私自身ゲームをやりますし、ゲーム自体は楽しいものです。しかし、どうしてもネガティブな側面はあります。ゲームやネットとどう付き合っていくか。社会的な議論をすべき時期にきています。
▽そら・いちろう 1957年徳島市生まれ。岡山大大学院医学研究科修了。東北大大学院医学研究科教授、厚生労働省依存性薬物検討会委員などを経て、2013年4月から神戸大大学院医学研究科精神医学分野教授。