革新的なアプローチでがんを攻撃する「光免疫療法」が頭頸部がんの治療に保険適用されて1年、これまでに国内38施設で実施され、治療実績は30人を超えた。この間、楽天メディカルジャパンの三木谷浩史会長(56)は、開発者の米国立衛生研究所主任研究員、小林久隆さん(60)の研究を経済的に支援し、薬剤開発を推し進めてきた。三木谷会長に、今後の展開について聞いた。インタビュー前編の主な内容は次の通り。(霍見真一郎)
-光免疫療法との出会いは、父親の良一氏のがん判明がきっかけと聞きました。短期間で、巨額の研究支援を決断されています。
「父の体調が悪くなったのは、2012年の秋でした。診断で膵臓がんと分かりました。私をいつも温かく見守ってくれた、厳しくも優しい人でした。医師である姉に(余命の目安を)聞くと『3カ月くらいでは』という感じだったんです。父は翌年に亡くなりました」
「その後、僕の人生の目標は膵臓がんの克服となりました。父の治療法を探す中で光免疫の開発者、小林久隆さんに出会って研究支援を決めましたが、膵臓がん克服にはかなり時間もかかるでしょうし、難しいことも分かっています。僕は、アントレプレナー(起業家)は自分がもうけたお金をどう再利用していくかということが重要だ、と考えています。天国までお金を持って行けるわけではない。もし研究がうまくいって、たくさんの人の命が救えるのなら、お金の使い道としてとてもいい選択です。と言っても、理路整然と考えているわけではなくて、『これって人を助けられそうだよね』っていう、シンプルな感じなんですけど」
-まだ臨床試験前の段階でしたが、光免疫療法の有効性を信じたわけですね。
「信じるというより、『自明の理』だと感じました。がん細胞を一定の割合で壊死させることができるのは、『1+1=2』というのと同じくらい、太陽光をレンズで集めると火がつくというのと同じくらい、明らかだと思った。万が一、だめだったとしても賭けてみる価値があるテクノロジーだ、と思いました」
「もう一つ、支援を決めた理由は科学的な探究心ですね。実用化にはまだまだハードルがあるだろうとは思いましたが、なぜがんを破壊できるのか、というロジック(論理)はすごくシンプルだった。それで、コロンブスの卵のように『(治療法確立まで)いけちゃうんじゃないの』と思ったんです。その感覚は、ネットショッピングを始めたときと似ています。あのときも、誰もネットで物を買わない時代に『いけちゃうんじゃないの』と思ったんです」