(2)ハモ漁 はえ縄一筋最後の1軒

2015/09/12 10:29

伝統のはえ縄漁を守り続ける安達豊和さん。暗闇の中で威勢のいいハモが光る=南あわじ市沼島沖(撮影・小林良多)

 1カ月の住み込み取材をする際、最も心配なのは毎日の食事だった。 関連ニュース 水揚げ順調に推移 夏の味覚、ハモ身太る 明石浦漁協 ハモ、タイ漁港活気 由良の漁協で競り コロナ禍で価格は低迷 島特産のハモ使いパスタソース 全国100産品に

 淡路島の南に浮かぶ離島・沼島(ぬしま)。2・7平方キロの中に、一人で気軽に入れるチェーン店やコンビニはない。
 だが、その懸念はすぐに消えた。
 「これ食べてよ」
 借りた空き家に島の人が持ってきてくれるバケツには、捕れたての小エビやウオゼ、タイ、ミズイカ…。ゆでるだけ、焼くだけでごちそうだ。多すぎるほどの“お裾分け”は滞在中、続いた。
 そして、何といってもハモ。地域で夏祭りの準備をしているお宅を訪ねると、長さ1メートル以上の巨体をさばく最中だった。
 「骨切り、やってみるけ?」。南区長の花岡基裕さん(60)が無茶を言う。おそるおそる出刃包丁を押し出す。ジョリッ、ジョリッ。それほど力を入れなくても切れた。
 沼島産は骨や皮が柔らかい。島の周りに広がる泥が格好の寝床となり、体が硬くならないとか。
 湯引き、フライ、タマネギ入りのハモすき。身はふわふわ。甘い。京都御所に献上されていたというのもうなずける。
     ‡
 8月上旬、沼島漁港沿いの小屋。高齢の男女7人がナイロン製の細縄をほどいてかごに入れ、縁にJ字形の針を留める。ハモのはえ縄漁で使った縄を修繕する「縄繰(なわく)り」作業だ。
 「ええ漁やったかどうかは、針を見たら分かんだぁ」と元漁師の吉田安夫さん(75)。鋭い歯のハモはかかっただけ針も傷む。
 はえ縄漁は、魚の体を傷つけず、味の良さを引き立てる漁法。江戸後期、沼島の漁師が各地に広めたという記録がある。安達豊和さん(72)が伝統を守り続ける。
 「とれただけ金になったわなあ」。16歳で漁師になった安達さん。1960~70年代、キロ6500円の高値が付き、余裕のある暮らしができた。
 しかし、韓国産のハモが入り始め、値段はキロ2千円台に下落。量も捕れなくなった。
 加えて作業はきつい。周囲の漁師はアジ漁などに切り替え、気付けばハモを扱うのは全体の3分の1に。底引き網漁ばかりで、はえ縄漁は安達さん一家だけだ。
 「もうやめよ、もうやめよと思てんで」。そのたびに、「ハモ漁は沼島が仕切っとんや」と誇らしげに話す祖父や父の姿が浮かんだ。
 でもなあ。孫には継がせられんなあ…。漁でつけたという眉間の傷痕をさすった。
     ‡
 捕れなくなっているのはハモだけではない。ここ4、5年でアジが激減。海水温の上昇とか、し尿処理の発達でプランクトンが減ったとか、原因は色々考えられるが特定されていない。
 島内唯一の仲買「志満丸水産」をのぞいた。水揚げされたばかりの20種以上の魚。不漁の言葉と結びつかない。「値のつかん魚がほとんどやで」と島津弘成社長(46)。
 ただ、手をこまぬいてばかりでもない。大手スーパーとの提携話も進んでいると聞いた。
 ハモは魚へんに「豊」と書く。この島は、こんなにも豊かなのに。お裾分けでこしらえた食卓を見つめた。
(岡西篤志)

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