声でつながって「イイミミ」50歳 開局半世紀記念、ミミ子・ミミ男座談会

2021/03/03 05:30

イイミミの仕事について語り合う担当者のミミ子さん(右)とミミ男さん(撮影・秋山亮太)

 電話やファクスで読者の本音をお聞きし、語り口調のまま掲載する人気コーナー「イイミミ 電話でどうぞ こちら編集局」。1971年3月3日に開局し、おかげさまで50歳を迎えました。うれしいこと、悲しいこと、腹の立つこと…。率直な思いが他の読者の共感を呼んで話題が広がる。井戸端会議のようであり、新聞と読者がともにつくる「双方向」メディアの先駆けでもあります。開局半世紀を記念し、担当するミミ子さん、ミミ男さんの座談会を企画。普段は聞き役のお二人に、思い切りしゃべってもらいました。(亀山正芳、溝田幸弘)

■実は電話嫌いだったんです。でもやってるうちに面白くなって
 -お二人はイイミミの担当になってどれくらいですか。
 ミミ子 私は1991年ごろから。なので30年になりますね。
 ミミ男 僕は13年9カ月。…でも、実は電話嫌いな人間だったんですよ。
 ミミ子 私も!(笑)。最初の1週間は胃が痛くって。でも、やっているうちに面白くなってきたのよ。いろんな背景を持ち、さまざまな生活をしている人が話をしてくれる、っていうのがね。
 -電話は1日どれくらい?
 ミミ男 多いときは1人で20本ぐらい受けます。
 ミミ子 ファクスも少なくとも1日10件、話題があるときはもうドバッと。
 -どんな内容が多いですか。
 ミミ子 話を聞いてほしい、という人が一番かな。昨日こんなことがあって、みたいな。
 -みなさん、新聞に載ること自体を楽しんでいる?
 ミミ子 そうやと思う。自分で書くのは大変だけど、編集し載せてもらえるのがいいのかも。
 ミミ男 おばあちゃんのブログですよね。
 ミミ子 小学生からの電話もあるよ。カワセミが見たいっていう5年の女の子の話を載せたら「どこそこにおるよ」って声がたくさん届いて。
 ミミ男 小学2年の女の子が、NHKで放送されたドラマ「アンという名の少女」の感想を言うてきた。原作「赤毛のアン」ファンの年齢層が広く、70歳の女性からも反響がありました。
 -投稿に読者が反応して話題が広がるのは、特徴ですね。
 ミミ男 ちょっと前やと、播州の方で、運動会の競走でラストスパートの時に「へびー、へびー」って声援を送るという話。英語から来ている説とか、ヘビに追い掛けられてる説とか、たくさん反応がありました。
 ミミ子 病気や体の話も多い。小学生の子が「私、足が臭いんです」っていうので載せたら、いっぱい電話がかかってきた。
 ミミ男 病名には詳しなったなあ…(しみじみと)。それと年に1回、「生きてるで」って電話をくれる人も。生きてる証しみたいなんを見せたい、っていう人も結構いるんですよ。
 ミミ子 桜の時期に電話してくるおばあちゃんとか。「今年も電話ができました」って。
■震災の時、電話はかかりづめ。本当に、一緒に泣いてた ミミ子
 -一方で大きな事件・事故のときも、たくさんの声が届く。
 ミミ子 尼崎JR脱線事故とか。
 ミミ男 台風、水害も多いね。
 -ミミ子さんは阪神・淡路大震災のときも担当だったんですね。
 ミミ子 震災から半月ほど後の2月11日に再開したんだけど、電話はかかりづめでした。本当に、一緒に泣いてた。身内が亡くなった話とか、家がつぶれた話とか…。
 -今だと、コロナ禍の影響を感じることは。
 ミミ子 人に会えない、外に遊びに出られないので、ちょっと癒やしを求めている部分があるよね。
 ミミ男 ほんまに出掛けてはらへんよ。
 ミミ子 1人暮らしのお年寄りから「話す人がいないから」ってかかってきたことがありましたね。中には「今日、初めて声を出す」っていう人もおった。「また電話してきてね」って切るんだけど。
 -つらい話のときに心がけていることは。
 ミミ男 重い話で、こっちが声をかけられへんときは「そうですか」ってうなずくだけ。
 ミミ子 一言「よう頑張ったね」って言葉をかけることで、その人の中でも納得しはるというか。「抱えていたものをはき出せて良かった」と、ホッとしはるときがある。
■気ぃついたら13年9カ月。大変ありがたい経験でした ミミ男
 -あらためて、担当者から見たイイミミの魅力を。
 ミミ子 電話をかけてきてくださる方とのキャッチボールですよね。
 ミミ男 電話をしてくるのはおしゃべりが上手な人ばかりじゃない。ああでしょ、こうでしょ、といろいろ聞いて上手に引っ張り出す。2人で物語を完成させるんですね。そんなときは原稿もすらすら書けます。
 -さて、今回の座談会。話し合いの末、お二人の顔はあえて掲載しないことにしました。
 ミミ男 少し迷ったんですが…。イイミミは声だけでできている世界や、と思うんですよ。みなさんは私たちの声というか、会話を頼りに電話をかけてきてはる。顔とかの「生もん」は邪魔になるような気がする。
 ミミ子 電話を受ける方はあくまで想像の方がいいかなって。ミミ子、ミミ男のまま、これからも続いていけばと思う。
 -実はミミ男さんは、2月末でイイミミの担当を“卒業”されました。最後に一言。
 ミミ男 いやー、こんなに長く関わることになるとは思ってなくって。気ぃついたら13年9カ月。毎日「ちょっと聞いてー」とかかってくる電話に、僕も笑うて、怒って、ちょっとへこんで、それから一緒に楽しんで。まあ、ほかの人にはでけへん、大変ありがたい経験でした。みなさん、続けてイイミミをよろしく。ありがとうございました。
 -ミミ子さんからは、51年目に向けての抱負を。
 ミミ子 50年前のスクラップ帳には、今もお電話くださる方だと分かる投稿があるんですよ。ありがたくって。当時は、イイミミのマークでもご存じのダイヤル式電話でした。この30年ほどで、携帯電話、スマートフォンに進化。けれど、どんなに進化しても、みなさんの人生と出合える「あのね、聞いて…」の温かい声は変わっていません。これからも、あなたの声と走り続けます。
■おなじみ黒電話14変化  漫画家の故・高橋孟さん作
 イイミミの投稿には、内容に応じて表情豊かな黒電話のカットが添えられています。その数、14種類。長年の愛読者の方も、すべてはご存じないのでは? 全種類をこのページで紹介してみました。
 作者は、神戸で活躍した漫画家の故・高橋孟さん。イイミミが始まって2年目の1972年にはもう使われていました。「いいね!」「おめでとう」「困った」…。ユーモラスな表情が、読み応えをより和やかにしてくれます。
 黒電話を知らない世代も増えましたが、これからもコーナーを楽しく彩ってほしいものです。(溝田幸弘)

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