(15)寂しくない最期だった

2019/12/24 09:40

川島かづ子さん(右)と高栖望さん。同居は1年余り続いた=神奈川県藤沢市(高栖さん提供)

 バス通り沿いに集合住宅やファミリーレストランが立ち並ぶ。私たちは神奈川県藤沢市のニュータウンにいる。 関連ニュース 新規入居者に定期券あげます URとJR西が実証実験の第2弾 神戸線明石-三ノ宮の3カ月分 神戸、明石の6団地 「神戸の団地育ち」のエビ販売 垂水・新多聞団地の空き室で養殖 神戸阪急で20日、デパ地下で初 団地産エビ「ぷりぷりで甘い」 空き室で養殖実験、回転ずし店のネタに出荷も<垂水区 推し担出稿>

 都市再生機構(UR)の団地の6階に、「ぐるんとびー駒寄」はある。団地の住民や近所の高齢者が利用する「小規模多機能型居宅介護事業所」だ。中に入ると、利用者が新聞を読んだり、スタッフと話したり、自由に過ごしている。運営会社の菅原健介社長(40)に話を聞く。
 菅原さんは東日本大震災の避難所でボランティアをしていた。「避難所は多くの人が集住し、『困った』という声が聞こえやすかった。人が集まってる方が、お互いに支えやすいなあって感じたんです」。その経験から、団地に注目したという。
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 利用者とスタッフがルームシェアしていたことがあった。3年ほど前のことだ。「目の前で起こってることに、僕らは何ができるのか? そういうことなんですよ」。菅原さんが話し始める。
 自宅から「ぐるんとびー」に通う利用者に、川島かづ子さんという女性がいた。アパートに独りで暮らしていたが、転倒することが増え、その度に大声で悲鳴を上げたことから退去を求められた。
 「施設には入所させたくなかったんです。環境の変化が苦手で、幻覚も見えていたんで…」。そう振り返るのは「ぐるんとびー」の管理者、神谷直美さん(53)だ。
 年金暮らしだったので、団地の一室でスタッフらと同居し、負担を軽減することになる。これまでに2人のスタッフが一緒に暮らした。最後は高栖(たかす)望さん(26)。「帰ると『だーれー?』って声がするんです。歌声が聞こえてくるときも。人の気配がする生活でした」と懐かしむ。
 今年10月中旬、川島さんは「ぐるんとびー」で亡くなった。自室からやってきていすに座ったものの、呼吸が乱れベッドに移る。スタッフが代わる代わる声を掛ける中、大きく息を吸い込み、そのまま永眠した。89歳だった。
 親族とともにスタッフも、体を清める「エンゼルケア」に加わった。高栖さんは口紅を塗ってあげた。寂しくない最期だったと思っている。
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 11月末、団地で新たなルームシェアが始まった。今回は認知症の女性とシングルマザーの親子の組み合わせだ。

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