(8)死は、きれいごとじゃない
2020/02/09 10:35
再婚から15年になる吉田利康さん、恵子さん夫妻。ようやく夫婦らしくなってきたという=西宮市北口町(撮影・秋山亮太)
私たちは、前夫を亡くした兵庫県西宮市の吉田恵子さん(57)の話を聞いている。気がつくと、3時間近くたっていた。
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前夫の堤則夫さんは食道がんだった。闘病中、恵子さんは病気の進行や治療法の情報を得ようと、医師や看護師、患者の家族が書き込むインターネット掲示板によくアクセスしていた。
則夫さんが亡くなった後、恵子さんは誰かに話を聞いてもらいたいと、再び掲示板をのぞくようになる。「でもね、同じように夫を亡くした人でも子どもがいると違いますもんね。『この子が大きくなるのが生きがいです』とか書いてあると、ちょっと私とは違うなあって」
同じように掲示板にアクセスしていた中に、前妻の章江さんをみとった吉田利康さん(71)がいた。2人はメールでやりとりするようになり、2005年に再婚する。
◇ ◇
「再婚と彼の死は全く別です。再婚で整理できることはないです」。恵子さんがはっきりと言う。そういえば、利康さんも同じようなことを言っていた。
再婚当初、恵子さんは則夫さんの写真を、利康さんは章江さんの写真をそれぞれ飾っていた。家の中で、それぞれ前の伴侶のことを語り合う。「友人たちに『4人で暮らしてるみたいね』と、よく言われました」。そう話す恵子さんの表情は柔らかい。
則夫さんが逝って17年です。今はどうですか?
「昔より思い出すことは減りました。きれいごとじゃないんですよね。悲しみとかどろどろしたものが溶けて、自分の体に染みこんだみたいになるんです。今の私をつくってくれたんだと思います」。自分の体を抱きしめるようにして、恵子さんが言う。
利康さんと再婚して15年。「最近ですよ、やっと2人とも、いいとこも悪いとこも見えてきて、夫婦らしくなってきたと思います」
夫妻は現在、賃貸マンションの一室で暮らしている。利康さんが章江さんと結婚後に暮らし始め、最期をみとった場所でもある。この春、2人はそこを引き払って新しい住まいに移る。
◇ ◇
次回からは父親が脳死判定を受け、臓器を提供した家族の話をしたい。