【9】部活辞めた 未来見据えた16歳の決断
2018/02/27 10:00
グラウンド。休日には歓声が響く
年の瀬も押し詰まった12月29日。午後7時すぎ、高校3年の瑛太がガソリンスタンドのアルバイトから帰ってきた。この日は9時間働いた。「寒かったー」。コートを脱ぎ、テーブルに着く。
他の子は夕食を終え、テレビやゲームに夢中。ユニットの担当職員は瑛太の帰りを待っており、そっと横に座り一緒に食べ始めた。メニューはビーフカツ。瑛太は食べ盛り。「やばいわ、太ってしまう」。笑いながら何度もおかわりした。
瑛太は高校1年の春、尼学に来た。「あのまま家にいたら、追い詰められて死んでいたかもしれない。しんどい生活から解放されてほっとした」。それが一番の気持ちだった。
尼学に来るまで、児童養護施設についてほとんど知らなかった。「テレビなどで目にしていたが、自分がそういう状況になった」。親と暮らせない子がいる現実を目の当たりにした。
生活にはすぐに慣れ、9月に高校のハンドボール部に入った。家庭にいたころはできなかったため、念願だった。しかし、問題に直面する。
瑛太の将来の目標は数学教師。テスト前には勉強会を開き、友達に教えるのが好きだった。一方、大学に進学するためには、学費や生活費を自分でためないといけない。高校までの通学時間は1時間20分。勉強、部活、バイトのすべてをやるのは不可能だった。
顧問や職員と話し合いを重ねた。もし浪人をするなら、その1年間にバイトをして貯金すればいい。しかし現役で行くのなら、部活はあきらめなければならない。「後々苦労するのなら、いまやったほうがいい。いま楽をしたら、苦労しか残らない」
16歳の決意。部活は1カ月で辞めた。(文中仮名)