【7】子どもたちと寄り添い「人生を終わりたい」

2018/02/24 10:00

柔らかな日差しが注ぐ中庭

 2009年3月、大庭英樹は22年働いた児童養護施設を退職した。妻は「1年ぐらいゆっくりしたら」と言ってくれた。慣れない営業の仕事もしてみたが、娘たちから「似合わない」と言われた。

 10月、再び子どもと関わる仕事に。川西市の児童相談所の嘱託職員となった。それまでは子どもを受け入れる側だったが、児相は親と向き合う仕事だ。家庭で問題があっても、施設に入るのはまれなケース。多くは地域や行政が協力して見守っている。「施設では子どもしか見えてなかったけど、親の抱える背景も知ることができた」
 激務ながら充実した日々。児相で経験を積む中で、子どもたちの顔が浮かぶようになった。「これまで出会った子だけでなく、これから出会う子にしてあげられることがある」。そんな時、旧知の鈴木まやに尼学で働くことを誘われた。
 戻ったのには、もう一つ理由がある。「罪滅ぼし」。そう告白する。
 体育会ラグビー部出身。駆け出しのころは、子どもたちから震えるほど怖がられた。何かトラブルがあっても、大庭が行くと「ぴしっとなった」。
 だが、それは一時的なことだった。子どもには何の成長もない。「自分に酔っていた。とんでもない育て方だった」。気付くのに8年かかった。
 以来、子どもたちが安心して暮らせるよう、寄り添ってきた。ふとした瞬間に見せる小さな成長が、この上なくうれしい。
 「この仕事の終着点は施設を出て10年、20年後」という。巣立った子が仕事を頑張っている。幸せな家庭を築いている。何人も見てきた。
 「子どもたちとどっぷり生活して、人生を終わりたい」。今は心からそう思う。(敬称略)

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