【41】退所後、事件起こした子も被害者になった子も… 誰もこぼれ落ちない制度あれば
2019/05/03 05:30
頑張って作ったよ
2月25日、事件は起きた。
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東京都渋谷区の児童養護施設。刃物を持った男が侵入し、男性施設長を何度も刺した。施設長は亡くなった。逮捕されたのは、4年前まで施設にいた22歳の男だった。
「施設に恨みがあった」。警察の調べに対し、男は説明した。「施設の関係者であれば誰でもよかった」とも話した。
事件の一報を聞いた児童養護施設「尼崎市尼崎学園(尼学)」(神戸市北区)の副園長、鈴木まやはうなだれた。「ただただ、悲しい事件が起こってしまいました。とてもひとごととは思えません」。かつて送り出した子たちが頭に浮かんだ。
退所後に傷害事件を起こした子がいた。別の事件で被害者になった子も。「今、どうしているのだろう」。情報がなく、連絡できない子も少なくない。
尼学の生活は現在、個人の部屋があり、担当職員がほぼ固定の「ユニット制」で営む。5年前まで大集団の「大舎制」だった。最大9人が12畳で雑魚寝する。個人の空間はほとんどなく、職員の目も今ほど行き届かなかった。でも、18歳になると退所が待っていた。
「納得しないまま進路を決められた、本当は別の道を選びたかったという子もいると思います」と鈴木。人はつまずいた時、誰かのせいにしたくなる。退所後、支援が届かなかった子たちはなおさらだろう。
鈴木は願う。一度自立に失敗しても、再び前を向けるまで居られる場所があればいいのに。誰もこぼれ落ちないよう、支える制度があればいいのに。
そして強く思う。一生懸命やっても、一人一人をいい形で送り出せるとは限らない。でも何十年か先、その子が「尼学があってよかった」と思ってくれたら、これ以上ありがたいことはない。
3月下旬、尼学の職員会議。職員たちに思いを伝えた。「一人の人生に関わる責任があり、その分得られる喜びがある。大変だけど、そんな仕事に就けていることを大切にしてほしい」
(敬称略、肩書は当時)
記事は岡西篤志、土井秀人、小谷千穂、写真は風斗雅博が担当します。
【児童養護施設】虐待や経済的困窮、親との死別などが原因で、こども家庭センター(児童相談所)に一時保護された子のうち、家庭に戻れない2~18歳(原則)が入所する施設。2017年4月時点で全国に602カ所あり、兵庫県内は32カ所。全国の児童相談所が児童虐待の相談や通告を受けて対応した17年度の件数(速報値)は13万3778件で、27年連続で過去最多を更新。データ上は、児童養護施設にいる子の約6割が虐待経験があるとされる。里親や里親ファミリーホーム、児童自立支援施設などと合わせ、「社会的養護」と呼ばれる。
【尼崎市尼崎学園】神戸市北区道場町塩田にある児童養護施設。正式名称は「尼崎市尼崎学園」で、通称「尼学(あまがく)」。尼崎市の外郭団体「尼崎市社会福祉事業団」が運営する。戦時中、関西学院の修養道場に尼崎市内の児童が集団疎開し、戦後、関学が同市に土地と建物を提供。戦災孤児や浮浪児らを受け入れてきた。長年、大集団で生活する「大舎制」だったが、5年前、生活の場を6人単位で個室がある空間「ユニット制」に移行。担当職員はほぼ固定し、一人一人に合ったケアを充実させている。5月2日現在、3歳から19歳までの計42人が暮らしている。