記者コラム<サイドライン>大矢、家族とつかんだ銀
2021/09/04 22:50
銀メダル獲得から一夜明け、記者会見で撮影に応じる陸上男子の大矢勇気=4日午前、東京都内(代表撮影)
東京パラリンピック陸上男子100メートル(車いすT52)で銀メダルに輝いた39歳、大矢勇気(ニッセイ・ニュークリエーション、西宮市出身)が一夜明けの4日、東京都内で記者会見に臨んだ。「重たいな」。首にかけたメダルの価値とともに語ったのは亡き母と11歳上の兄についてだった。
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大矢は4人兄弟の末っ子。高校進学後、転落事故につながるビル解体現場で働いたのも、シングルマザーの母洋子さんを助けるためだった。
陸上を始めてからは洋子さんが練習に付き添ってくれたが、2012年ロンドン大会の最終選考会当日、末期がんで亡くなった。
遺言は「世界を目指せ」。今回、大矢は10年越しに夢をかなえ、目標の金メダルには0秒19届かなかったが「天国の母は喜んでくれていると思う」とうなずいた。
洋子さんの後を継いで支えたのが、かつて競輪学校に通った長男忠洋さん。母に「勇気を頼む」と託され、毎週末、取材にも公開しない2人きりの特訓で得意のスタートダッシュを進化させた。
レース後、忠洋さんから届いたメッセージは「ようやったな」。大矢は会見で「涙が出てきました」。兄弟にしか分からない、短くとも重い言葉だった。
(有島弘記)