(5)森の恵み 木質燃料、将来のCO2吸収頼み
カキの養殖筏(いかだ)が広がる相生湾の西岸に位置する関西電力相生発電所(兵庫県相生市相生)。かつては石油を燃料としていたが、1、3号機は天然ガス併用に改造された。2号機は燃料を木質バイオマス(生物資源)に転換し、新会社によってまもなく稼働が始まる予定だ。
出力約20万キロワットで木質バイオマスでは国内最大級。木質チップを乾燥、圧縮した木質ペレットを燃やして発電する。燃やすと二酸化炭素(CO2)を出すが、それは木の成長過程で大気から吸収したものだから、大気中のCO2量は増えない-という考え方に立つ。

木質バイオマス発電所に改造された関西電力相生発電所の2号機(中央の建屋)=相生市相生
関電は「この発電所で脱炭素に貢献していく」とする。木質バイオマス発電は2020年度の電源構成では2・9%だったが、政府は30年度目標で5%程度まで増やす。だが、この「カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)燃料」に対する見方は分かれている。
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相生発電所は年間60万~70万トンの燃料調達が必要で、100%を輸入燃料に頼る想定だ。主に北米産木質ペレットを使うというが、加工や海上輸送の過程でCO2が排出される。国際環境NGO「エフ・オー・イー・ジャパン」(東京)の満田夏花事務局長は「カーボンニュートラルではあり得ない」と指摘する。
また、燃料となる木材の伐採で森林が減少し、CO2が吸収されなくなる懸念がある。伐採後は植樹で森林を復元する仕組みだが、満田事務局長は「その保証はなく、復元にも長時間を要する。森林は何百年もかけて少しずつ炭素を蓄えてきたが、伐採して燃やすと一気にCO2として放出されてしまう」と疑問を示す。
一方、関電は「持続可能な森林管理の下で製造された燃料を使う限り、環境省のガイドラインでも、バイオマス発電はカーボンニュートラルとされている」とし「持続可能性が承認された燃料を使う」とする。
輸送時のCO2排出が少ない国産燃料にも不都合が起きている。新型コロナウイルス禍に伴う木材価格の高騰「ウッドショック」で確保が難しくなり、兵庫県産だけを燃料に使う「朝来バイオマス発電所」(朝来市生野町)は昨年12月、稼働停止に追い込まれた。
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政府は今月10日、脱炭素に向けた今後10年の道筋を示す「GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた基本方針」を閣議決定した。「再生可能エネルギーの主力電源化」を掲げる一方、原発を「最大限活用する」と方針転換した。
再エネにはさまざまな制約や課題が残り、原発は安全面での不安が国民の間で根強い。石炭火力については、政府は30年までの「非効率な石炭火力のフェードアウト」を打ち出しており、今後の検討の行方が注目されている。
国際社会が脱炭素に向かう一方、ウクライナ危機の影響などでエネルギー不安が世界を覆う中、化石燃料への依存にどう向き合うべきか。迫る気候危機を前に、私たちは今、分岐点にいる。(脱炭素取材班)
◇このシリーズは今回で終わります。