台風の大型化や森林火災、干ばつ、熱波などの異常気象が世界各地で頻発している。大きく影響しているとされるのが、地球温暖化による気候変動だ。 日本では年間降水量は横ばいながら、想定を上回る豪雨が相次ぎ、毎年のように洪水被害が起きている。一方で、雨が降らない日数も増え、渇水が発生している。日中最高気温40度超が珍しくなくなり、歴代記録上位25地点のうち21地点が2000年以降に史上最高を記録している。
気候現象の極端化は世界各地で起きている。21年、ドイツでは複数の地域で集中豪雨による洪水が発生。死者は隣国ベルギーと合わせ200人を超えた。 ギリシャでは「過去30年で最悪の熱波」による山火事が起きた。同国首相は「火災は間違いなく気候変動に関連している」と指摘した。イタリアのシチリア島では、欧州史上最高気温48.8度を観測。米カリフォルニア州デスバレーでも、54.4度を記録した。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、南極やグリーンランドの氷が解け、海面の高さはこの100年ほどで最大21㌢上昇した。温暖化は生き物の生息域や植物の分布にも影響を与え、農漁業をおびやかしている。 世界の平均気温は18世紀の産業革命前から約1度上昇した。近年の異常気象は地球温暖化が大きく影響している、と専門家は主張している。そして、気温上昇が進めば、事態はさらに深刻になると警告する。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2021年、人間活動と地球温暖化の関連を「疑う余地がない」と断定する報告書を発表した。人間活動で排出される二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの増減が気温に影響することが指摘されている。 石油や石炭などの化石燃料は燃えるとCO2を排出する。産業革命以後の化石燃料をエネルギー源とした産業活動によるCO2排出量は増加を続け、18年は335万㌧と、40年前の2倍以上になった。
私たちが日常生活で直接使う化石燃料は都市ガスや灯油、ガソリンなどだが、一般の電気は石炭や天然ガスなどでつくられており、これらの電気を使えばCO2を出したことになる。着ているものや食べるもの、使っている機器も、生産課程でCO2が排出されている。 国別の排出量は、多い順に中国、米国、インド、ロシア、日本で、この上位5国で世界の6割近くを占める。また、日米欧の先進国に新興国を加えた20カ国・地域(G20)が世界の8割を占める。
IPCCは人類がこのままCO2など温室効果ガスを多く出し続ければ、世界の平均気温は今世紀末には産業革命前から最大3.3~5.7度上昇する可能性があるとしている。 温室効果ガスはCO2だけでなく、ウシなどの家畜のげっぷで出るメタンや肥料使用で放出される一酸化二窒素、冷蔵庫などの冷媒として使われる代替フロンもある。
国際社会の温室効果ガス排出抑制の取り組みは、1992年の国連気候変動枠組み条約締結に始まり、先進国に数値目標を義務付けた97年の「京都議定書」をへて、2015年の「パリ協定」では気温上昇を「産業革命前から2度未満」に抑えることを目指すと決めた。 その後、EU、英国は50年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を宣言。日本も20年10月、50年のカーボンニュートラルを宣言した。トランプ大統領時代に協定を離脱した米国も復帰し、日欧に歩調を合わせた。 だが、21年10月、条約事務局は各国が示した温室効果ガス排出削減目標が達成されても、30年の排出量は10年比で16%増えるとの分析結果を発表し、取り組み強化を求めた。
同月末から英国グラスゴーで開かれた同条約第26回締結国会議(COP26)は、気温上昇を「1.5度に抑えるための努力を追求すると決意する」とした成果文書を採択して閉幕した。 実現には温室効果ガス排出量を大幅に減らす必要があり、パリ協定から一歩進んで、脱炭素社会を目指すとの方向を明示したといえる。一方、CO2の排出が多い石炭火力の扱いは、当初「段階的廃止」を目指したものの、最終盤で「段階的削減」に表現が弱まった。 日本は19年のCOP25に続き、地球温暖化対策に後ろ向きな国に世界の環境団体が贈る「化石賞」に選ばれた。石炭火力発電の廃止の道筋を示さなかったことが理由に挙がった。
気候変動による異常気象がもたらす経済活動へのリスクや、国際社会による温室効果ガス排出抑制の強化を踏まえ、脱炭素に大きくかじを切ったのは、欧米の経済・金融界だった。 パリ協定締結後、欧州を中心に多くの企業がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)目標を宣言した。欧米メーカーは自社の生産活動だけでなく、部品の発注先にも製造過程での脱炭素を要求するようになった。 欧米では企業が提供する製品やサービスの評価基準として、品質や価格に加えて環境配慮や社会貢献という要素が加わった。金融業界も環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の「ESG」に取り組む企業を重視し、投資が急拡大している。
EUでは2005年から、各企業に二酸化炭素の排出枠が設定され、排出量が枠を超える場合は他企業から余った枠を買うという排出権取引制度が導入されている。欧州では以前から経営に脱炭素が組み込まれてきたと言える。 こうした欧米の「脱炭素シフト」の波が今、日本にも押し寄せつつある。トヨタなど自動車メーカーは電気自動車への転換を前倒しし、製造各社は部品供給網も含めた生産活動への再生可能エネルギー導入を急ぐ。 鉄鋼、航空など化石燃料に依存してきた業界も、水素やアンモニア、植物由来など新たな燃料の開発を模索している。政府も「グリーン成長戦略」を打ち出し、企業の脱炭素化を支援する。
脱炭素社会を目指すと明示した2021年の国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)だったが、英国グラスゴーの会場付近では、世界各国の環境団体や活動家が不満の声を上げた。 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)は「明白な失敗だ」などと酷評した。企業などが削減できなかった温室効果ガスを国内外での植林や太陽光発電設置などで埋め合わせるカーボンオフセット制度を、発展途上国の土地搾取のリスクがある「偽善」だと指弾した。
また、バングラデシュ出身の留学生フマイラ・アンジュムさん(23)は「途上国が直面する温暖化の深刻な被害に気付いてすらいない人がたくさんいる」と述べ、先進国の人々も温暖化問題に強い関心を持つべきだと訴えた。 専門家が地球の危機を警告しているのに、温暖化対策が徹底されないことへの不満に加え、地球に負荷をかけて経済成長の恩恵を得た先進国が発展途上国に十分な支援を果たしていないことへの不公平感が、若い世代の間で渦巻いている。 さらに、地球温暖化は過去と現在の産業活動によって引き起こされているにも関わらず、そのリスクは次世代が負わなければならないという理不尽さが、若い世代を抗議運動にかき立てている。 日本でも、グレタさんらが始めた抗議運動「フライデーズ・フォー・フューチャー」に共感した若者が声を上げ始めている。(文中の年齢は当時)
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