震える心 力に変えて
被災者の感涙 プロの原点

藤本敦士さん (36)
野球解説者/西宮市

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震える心 力に変えて
被災者の感涙 プロの原点

藤本敦士さん (36)
野球解説者/西宮市

 震災直後の選抜高校野球に、育英高校の主将として出場しました。被災地に配慮して開催決定が遅れ、出場校が決まったのは2月下旬でした。
 甲子園に行ける―となっても、大喜びはできませんでした。被災地で、すさまじい光景を見ていたからです。
 2月上旬、震災後初めての登校日に、無事だった明石市内の自宅からJR鷹取駅まで行き、学校へ向かいました。そこで見たのは、焼け野原になった長田の町並みでした。正直、野球ができる状況じゃない、と思いました。被災したチームメートもいて、被害のなかった選手の家にホームステイしながら練習していました。そんな中で迎えた大会でした。
 初戦を突破した試合後、母校の体育館に避難していた被災者の方が、僕らの勝利に涙を流して喜んでくれたと聞きました。世間では「野球をやっている場合か」という声もあったので、少しでも励みになれたと知り、救われました。自分のためにやってきた野球で、人に感動してもらえるなんて初めてのことでした。
 その後、プロ野球の阪神で内野手としてプレーしましたが、この時の経験がプロを目指した原点です。(辰巳直之)


2014年8月28日掲載
写真撮影場所:

西宮市、阪神甲子園球場