野原神川(しんせん)さん (59)
書家/神戸市東灘区
野原神川(しんせん)さん (59)
書家/神戸市東灘区
父と母はだめかもしれない。そう覚悟しながら歩いた震災後の街は異様に静かでした。
神戸市東灘区のマンションで地震に遭いました。1キロほど離れた木造長屋の実家と、斜め向かいの妹夫婦宅はつぶれていました。妹は近所の人と助け出しましたが、義弟は亡くなりました。両親の家は、私では何一つ動かせない状態でした。
大けがをした妹に付き添っていた病院で両親の遺体が学校に運ばれたと知りました。駆けつけると2人だけひつぎに入っていません。ひつぎは身内で組み立てなければならなかったんです。ちゃんと生きてきた両親の最後がこれか。そう思うと、悔しくて初めて泣きました。
時間がたっても心の傷は消えません。でも被災して感じたことや、励ましへの感謝を表したいと思い、約10年前に創作を始めました。長年書道を続け、テレビのタイトル制作会社で働いていた経験から、書とデザインを融合させ、字体で前向きな気持ちを表す「踊書(ようしょ)」に行き着きました。
50歳で実家跡に工房を開きました。東北の被災地へも行き、私の経験を話しながら書道で交流しています。それが震災を経て書を志した、私の支援なんです。(三浦拓也)
神戸市東灘区本山中町2、ばく工房