あの日の記憶 傍らに
嫁さんの値段表 今でも

上野數好さん (71)
すし職人/神戸市東灘区

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あの日の記憶 傍らに
嫁さんの値段表 今でも

上野數好さん (71)
すし職人/神戸市東灘区

 この2枚の値段表、20年以上前から店にある。震災で亡くなった嫁の美智子=当時(47)=が手書きしたもんでな。最近はところどころ黒ずんできたけど、画用紙にペンで丁寧に書いとったな。
 わしの家は震災で1階がぺしゃんこに崩れた。わしと子ども2人、義理の母は無事やったけど、嫁さんだけ1階で寝ててな。前の年に自転車でこけて股関節折って、脚が不自由やった。何とかしようとしたけど、がれきの間から握った手はもう冷たかった。
 嫁さんは愛想よくてなぁ。この場所で1974(昭和49)年に開店してから、ようやってくれた。お客さんにも人気があってな。今でも常連さんの話題に上るほどやから。
 もう20年たつけど、わしはいつまでたっても忘れられん。店で仕事しとったら気が紛れる。けど、夜、1人で家にいるとよう思い出す。疲れてる時は、特にな。
 消費税が上がってこの値段じゃ採算の厳しいネタもある。本当は変えたいよ。でも、嫁さんが残した値段表は、はがしたくない。お客さんも喜んでくれるし、いけるところまで、このまま頑張りたい。(辰巳直之)


2014年10月21日掲載
写真撮影場所:

神戸市東灘区岡本1、灘寿司