自慢の妹、最後の会話はミスチルCD「今度聞いておくね」

2021/01/17 20:21

妹の直子さんを亡くした河内弘之さん=17日午前6時31分、神戸市中央区、東遊園地(撮影・大森 武)

 6434人が亡くなり、3人が行方不明となった阪神・淡路大震災は17日、発生から26年を迎えた。新型コロナウイルス禍で一部の行事が中止や縮小を余儀なくされる中、神戸市中央区の東遊園地での「1・17のつどい」では今年も鎮魂の火が、亡き人を思い祈る人々を優しく照らした。「がんばろう 1・17」。被災地の各地でも感染防止に配慮しつつ、追悼の場が営まれた。 関連ニュース 大輪の花火、神戸港を彩る 5日間の分散型、毎日700発打ち上げ 最後の会話はミスチルのCD「今度、聞いておくね」 自慢の妹を追悼 兵庫県内の景気動向指数、2カ月連続で改善 運輸やサービスが上昇、小売は悪化

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 「みんなで頑張っているよ」。兵庫県西宮市で被災し、妹の直子さん=当時(22)=を亡くした河内弘之さん(52)=西宮市=は心の中で声をかけた。新型コロナウイルスの感染拡大で、追悼行事への参加に迷いはあった。それでも、祈りの場に足を運んだ。「家族にとっては特別な日。行くしかないと思った」
 自慢の妹だった。
 直子さんは短大を卒業後、神戸市内の食品卸会社に就職した。「人生計画もしっかり考えていた。『家族を持って幸せになりたい』と笑顔で話していました」
 そんな2人の共通の趣味は音楽。直子さんは人気バンド「ユニコーン」、河内さんは「ミスターチルドレン」のファンだった。互いに購入したCDを貸し合うのが、2人のコミュニケーションだった。
 震災前日。発売から間もないミスターチルドレンのアルバムを直子さんに貸した。「今度、聞いておくね」。これが、最後の会話になった。
 翌日。5時46分直前に目が覚めた河内さんは激しい揺れで全身を揺さぶられ、視界が突然、真っ暗になった。「天井が雪崩のように落ちてきた」
 家族5人で暮らしていた木造2階建ての一軒家は全壊。両親と弟は2階におり、1階で寝ていた河内さんと直子さんが生き埋めになった。直子さんの方が早く救出された。
 だが、助からなかった。次に顔を見たのは病院のベッドの上。圧死だった。
 河内さんは、倒れた柱と柱の間に生じた隙間のおかげで助かった。自分を責めた。「なぜ真面目な妹が…、なぜ俺じゃないのか…」
 以来、ほぼ毎年、直子さんの追悼のために東遊園地を訪れる。「言葉を交わさなくても、大切な人を失った思いを多くの人と共有できる場所」だからだ。
 「想像の中で再会するしかないけれど、立派なお母さんになっていたと思う。それは間違いない」
(千葉翔大)
【特集】目で見る兵庫県内の感染状況

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