SNS中傷なぜ防げない テレビ番組「テラスハウス」出演木村花さん死去

2020/06/21 09:00

神戸新聞NEXT

 フジテレビの恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラー木村花さん(22)が亡くなりました。番組内での振る舞いに対して会員制交流サイト(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷を受け、自殺したとみられます。死去までのいきさつを振り返りつつ、中傷した投稿者を特定する難しさや、同様の問題を抱える海外の事例をお伝えします。中傷はなぜ、止められないのでしょうか。(堀内達成) 関連ニュース SNSの誹謗中傷なくすためにできること 木村花さんの母、尼崎で講演へ SNSでの中傷/個人の尊厳守る手だてを 【一問一答】斎藤知事就任会見「良い政策しっかり進めたい」 SNS上の論争「見る余裕なかった」

■番組内の振る舞いに 攻撃メール「毎日100件」
 テラスハウスは男女6人の共同生活を写す番組です。問題になった放送回では、木村さんが洗濯機に放置したリングの衣装を、同居男性が自分の衣類と一緒に乾燥、縮ませてしまいました。木村さんは「人のこともっと考えて暮らせよ」と怒り、男性の帽子をはたき落としました。すると木村さんのツイッターに「お前が早くいなくなればみんな幸せ」「二度とテレビに出ないで」などと攻撃する匿名の書き込みが大量に続きました。
 5月23日未明、木村さんは「毎日100件近く率直な意見。傷付いたのは否定できなかったから」とツイート。インスタグラムにも「愛してる、楽しく長生きしてね。ごめんね」と猫と一緒の写真を投稿し、同日、死去しました。フジテレビは番組の制作と放送を打ち切りました。
■費用と時間膨大 投稿者の特定難しく
 中傷した投稿者を特定する作業は大変です。初めにツイッターなどのSNSの運営会社に対し、投稿者のIPアドレス(ネット上の住所に相当)の開示を請求。続いて、同アドレスから判明したネット接続業者(プロバイダー)に投稿者の氏名などの開示を求めます。しかし、どちらも請求に応じることは少なく、2度の裁判が必要です。そしてようやく相手が判明してから、損害賠償を求める3度目の裁判を行うことになります。刑事事件として警察に被害届を出す場合もあります。
 匿名の投稿者をたどる困難さは、ヘイトスピーチを受ける在日外国人に対しても同じ。悪意のある投稿がつきまとうことになります。
 総務省は投稿者を特定しやすくするため、制度改正を検討。運営会社やプロバイダーに開示を求める情報の対象に、電話番号を含める方針を示しています。電話番号はSNSの利用登録に多く使われており、運営会社への請求だけで特定できる場合が多くなりそうです。
■海外でも相次ぐ被害 匿名制限求める声
 悪意ある書き込みに追い詰められるケースは海外でも後を絶ちません。
 「感情任せのばか女」。米国のリアリティー番組「バチェラー」の元出演者レイチェル・リンジーさんは番組で涙を浮かべ、出演者が受け取ったメッセージを読み上げました。
 番組は独身男性の心を射止めようと、共同生活を送る複数の女性が競い合う内容。リンジーさんは「毎日これを受け取るつらさを想像して」と声を震わせました。米メディアによると、2004~16年、この番組や同様の番組の出演者計21人が自殺しています。
 英国でも島に滞在した男女の恋愛を追う番組に出た女性=当時(32)=が18年に自殺。韓国では、匿名の中傷が殺到した女性歌手ソルリさん=同(25)=や女性グループ「KARA」元メンバーのク・ハラさん=同(28)=が昨年、自ら命を絶ちました。
 埼玉県のいじめ撲滅を目指す団体の代表、森田志歩さんは「匿名の攻撃は、時と場所を選ばず被害者を追い詰める卑劣な行為」と非難。息子が中学生のころにネットで標的にされました。「死を選ぶ人をなくすため、運営会社によるルールの制定で匿名の書き込みを制限するなどしてほしい」と訴えています。
【教えて!先生】大阪弁護士会・壇俊光氏
 投稿者の特定には時間もお金もかかるが、主要なSNS運営会社が海外法人のため、特定をより困難にしている。
 無罪判決になったファイル共有ソフト「ウィニー」の事件のように、日本ではITビジネスの成長に歯止めがかけられ、衰退。ITの中心は海外に移り、投稿者の情報開示のハードルを上げてしまった。
 中傷などの書き込みを消す作業は大変だ。だからといって書き込み内容を監視する制度では、「通信の秘密」や「表現の自由」が守られない。
 加害者を特定しないまま提訴する「匿名訴訟」が可能な米国などと比べ、日本は後れを取る。投稿者情報の開示手続きを定めるプロバイダー責任制限法は抜本的に改め、すみやかに特定できる制度にすべきだ。

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