製造業社長が農業を始めたら… 黒豆作り好評、綿の栽培挑戦へ 「新たな魅力生み出したい」

2021/12/18 05:30

農地の活用や景観保全への思いを語る佐藤慎介さん=姫路市余部区

 会社勤めなど農家ではない人が、実家の農地を相続することになったら-。こんな「難問」に直面する例は播磨でも多いだろう。高い切削加工技術で、宇宙分野などの製品づくりを手掛ける佐藤精機(兵庫県姫路市)の社長佐藤慎介さん(63)もその一人。9年前に相続し、コロナ禍を機に、会社経営の傍ら黒豆作りに精を出すようになった。「農業を始めて見えてきたもの」とは。(段 貴則) 関連ニュース まねき食品がラーメン開発 たつの名産の淡口しょうゆで優しい味に 「味は発展途上、名物に育てたい」 「タコだけにターコイズ?」人気駅弁ひっぱりだこ飯のつぼに新色 「ひょっとしてダジャレですか?」副社長を直撃 国産バナナスムージー専門店「バナナの神様」 躍進の陰にある3つの取り組みとは?


 -きっかけは。
 「父が亡くなり、姫路市余部区の本社そばの農地約3300平方メートルを相続した。祖父は専業農家だったが、父が佐藤精機の前身を創業し、農家ではなくなっていた。草が生えれば近隣に迷惑が掛かるため、地元農家にお願いして耕作してもらっている状態だった」
 「コロナ禍の影響に加え、働き方改革にもつなげるため、私も会社にいる時間を減らした。その時間を生かし、趣味で農業に挑戦している社員らに手伝ってもらい、農地の一部で野菜や黒豆の栽培を始めた」
 -反響は。
 「昨年、収穫した野菜を社員や知人に配ると、評判が良くて。一方、地元農家から『うちの農地も託したい』と声を掛けられた。今年は農地が広がり、黒豆栽培を大きく増やした。『余部の黒豆』として大阪の商店街に持って行くと行列ができるほど好評で、山陽百貨店前でも販売した」
 -自ら土に触れることで見えてきたものは。
 「農業は私個人として取り組んでいるが、地域の小さな会社として、地元に何ができるかを考えている。農家の高齢化に加え、都市部で暮らす世代には農地の相続は難しい。何もしなければ農地が荒れ、将来、地元に好ましくない開発をされかねない。農地で農業を続けることが、地域の景観を守ることになる」
 「農業分野には規制が多い。また、身近な点ではトイレの問題。農地に衛生的な公衆トイレを置けないかと考えている。女性や若者らが農業で活躍するのに欠かせない。農業が面白い、格好いいと思われるような環境づくりを進めたい」
 -今後は。
 「来年は綿の栽培も始める。純国産素材でTシャツをつくるプロジェクト向けに提供するつもりだ。景観の良さだけでなく、綿の使い道などに多くの人が関心を持ち、知恵を持ち寄る地域を目指す」
 「農地にある古い農機具小屋も生かす。電気を引いて改装し、ピアノを置いて、クラブハウスとしたい。ストリートピアノならぬファームピアノ。お月見をしながらコンサートを開き、ワインを飲むなど、新たな魅力を生み出せれば」

■さとう・しんすけ 1958年、姫路市生まれ。同志社大卒。大手寝具メーカーを経て83年、佐藤精機に入社。常務を経て2013年から現職。従業員数46人。社長業の傍ら、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科も修了した。

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